【酵母の話-Vol.1】でご紹介しましたが、弊社は、酵母の製パン、醸造などの発酵用以外の用途として、酵母の総合利用という観点で、乾燥酵母、酵母エキス、および酵母細胞壁の3つの素材を加工食品向けに製造・販売しております(図1)。Vol.3 では、酵母細胞壁の利用を中心に解説したいと思います。
(図1)醸造後のビール酵母から得られる3種類の素材
酵母細胞壁は、酵母から細胞質を除いたものですが、細胞質から酵母エキスが製造されることから、ほとんどの場合、酵母エキスの製造と並行して製造されます。酵母細胞壁の模式図と化学組成を(図2)に示しました。酵母細胞壁は、マンナン層とグルカン層の2層で構成されており、酵母中の食物繊維の主体です。主な化学組成は、マンナン、グルカン、キチン、たん白質、脂質です12。
酵母細胞壁の用途は、たん白が含まれますので食品・飼料原料として活用される他、高度に加工して錠剤のコーティング等のフィルム材、特定成分の包接材、食物繊維としても活用されています。
酵母細胞壁の模式図
出典:酵母の利用と開発/秋山裕一編(学会出版センター)
S. cerevisiaeとC. albicans の細胞壁の化学組成
成分 | S. cerevisiae | C. albicans | ||
---|---|---|---|---|
(%) | (%) | |||
Ⅰ | Ⅱ | 酵母型 | 菌糸型 | |
マンナン | 31.0 | 30.0 | 33.3 | 27.7 |
アルカリ可溶 グルカン |
☆ | 20.0 | 14.2 | 10.2 |
アルカリ不溶 グルカン |
29.0 | 40.0 | 7.0 | 16.4 |
キチン | ☆ | ☆ | 1.6 | 2.6 |
タンパク質 | 13.0 | 10.0 | 28.3 | 26.5 |
脂質 | 8.5 | ☆ | 5.6 | 3.8 |
灰分 | 3.0 | ☆ | 2.8※ | 5.0※ |
ヌクレオチド | ☆ | ☆ | 2.4 | 1.9 |
出典:酵母の解剖(講談社サイエンティフク)
(図2)酵母細胞壁の模式図と化学組成
弊社は、コーティング剤・包接材酵母細胞壁「イーストラップ」を製造しています。イーストラップは、酵母を高度に加工された食品用コーティング剤です。主成分は食物繊維(グルカン)で、優れた皮膜形成性があります(図3)。
(図3)イーストラップの電顕写真
イーストラップの皮膜は高い酸素バリア性を有し、水中で容易に崩壊することから、錠剤のコーティング剤や一般食品、健康食品などの酸化防止・防湿、またマスキングにも活用されています。
(図4)にイーストラップの酸素バリア性について示しました。イーストラップは、一般的な合成樹脂(ペットボトル材、家庭用ラップ素材)のフィルムと比較して、高い酸素透過抑制能があります。
イーストラップの使用は、食品用途においても、顆粒調味料や香料などの風味の劣化を防止、酸化により品質変性するものや揮発減少する成分の保護、水への崩壊性があることから水や湯をさすことで風味を出すことができるなどの機能が期待できます。使用事例として、風味調味料(かつお)、香料、スパイスなどがあります。さらには、苦味や臭いなど食べるときに問題となるものをコーティングし食べやすくする、苦味や臭いのある成分を多く含ませても食味悪化を防ぐことができるなどの効果が期待できます。また、錠剤においては、糖衣前にコーティングすることで内包成分の糖衣へのしみ出しを防止する、吸湿性の高い内包成分の吸湿を防ぎ膨潤やそれによる糖衣の割れを防止するなどの効果が期待できます。
(図4)イーストラップの酸素バリア性
酵母細胞壁の食物繊維としての活用としては、当社のヒトでのエビデンスとして、高脂血症改善効果、便通改善効果が認められています。また、飼料用途では、酵母細胞壁由来グルカンの免疫賦活効果3、酵母細胞壁由来マンノオリゴ糖のアフラトキン捕獲能などの機能が学会などで報告されており4、機能素材としての活用も期待されています。
以上、今回は酵母細胞壁の利用について解説してまいりました。次回は、最終巻として、酵母エキスの培地用途としての利用性についてお話したいと思います。