【鰻割烹】伊豆榮 本店

  1. (東京都/台東区)

 ウナギそのものの質はもちろん、さばいて串打ちし、白焼きや蒸しの行程を経た後、タレをつけながら炭火で焼く、という一連の作業をどのようにこなすか、何よりタレの味をどうするかによって蒲焼の風味は大きく違ってくる。東京・上野の老舗「伊豆榮」では、甘味を抑えた秘伝のタレと、大規模店ならではの工夫で、国内外からの多くの来店者に納得の味を提供している。
クローズアップメニュー

うな重・竹 3,780円(税込)

甘さを効かせたタレとやわらかな食感が特徴的な一般的な関東風蒲焼とは一線を画し、ほどよく締まった感じと砂糖を一切使わないさっぱりしたタレで提供するのが「伊豆榮」の伝統。創業時から継ぎ足しを続け、戦時中も毎日火入れをして質を維持したというタレは深い味わいが魅力。ご飯と蒲焼を重箱に盛って一度蓋をしたら、食べる人が開けるまで手を触れず、蓋を開けた瞬間の独特の照りと香りを存分に楽しんでもらうなど、よりおいしく食べてもらうための提供の仕方も徹底している。「うな重・竹」を基本に、「同・松」「同・梅」、「うな丼」や「蒲焼」、「天ぷらや刺身と組み合わせた「伊豆栄弁当」、多種類の食材を揃えた口取りとのセット「姫重」、とろろと刺身のついた「うなとろ重」など、多彩なメニューの主役としてこの蒲焼が使われている。ご飯はコシヒカリ。ほかにお吸い物と漬け物がつく。お吸い物はプラス324円できも吸に変更できる。
技のポイント1
 

タレの材料は醤油、たまり醤油、みりん、酒のみ

タレの特徴は砂糖を一切使っていないこと。甘味の素はみりんのみだ。醤油のほかにたまり醤油を入れる目的は、ダマができるのを防ぎ、かつコクを出し、色づきを良くすること。みりんは上品でベタつきが少ないもの、酒は三重県の酒造会社の特定の銘柄を用いている。材料を鍋に入れて炊き、泡が出てきたら弱火にしてさらに炊く。
技のポイント2

継ぎ足しと熟成でタレの深みを維持

創業時から継ぎ足していることや、ウナギを何度も浸すことによって瓶の中のタレはうま味を増している。1日500枚前後の蒲焼を焼くためタレの消費量は膨大だが、そんな中でも深みを維持するため、継ぎ足し用のタレも熟成させている。新しく炊いたタレは一斗缶などに入れ、最大2カ月ほど密封保存。サラサラの新しいタレや熟成の進んだタレをバランスとタイミングを見計らって継ぎ足すからこそ、秘伝のタレの風味が維持されるのである。
技のポイント3

 

白焼きで形を整え、蒸してやわらかさを出し、素早く焼いて仕上げる

捌いて串打ちしたウナギは、最初に白焼きし、次に蒸して、最後にタレをつけて焼く。生のまま蒸すとフニャフニャになってしまうが、白焼きしておけば形が崩れない。これを蒸し(左写真)、火を含んで高熱を放つ備長炭にかざして焼く(右写真)。焼き台の脇に置いた瓶の中のタレにウナギを浸すこと3回。そのつど身、皮、身の順に焼く。焼きの作業を素早くこなすことでほど良く香ばしく仕上がる。
 
おすすめメニュー1

不忍御膳 4,860円(税込)

グループ内にウナギが苦手な人がいてもお店を利用してもらえるようにと、ここ40〜50年ほど力を入れてきたのがお弁当類。その代表格がこの「不忍御膳」で、口取り、刺身、天ぷら、煮物、蒲焼、食事などコース料理と同様の内容がトータルに少量ずつ楽しめる、いわば懐石料理の凝縮版。ウナギは蒲焼(松)より一回り小さめの食べやすいサイズ。ウナギ以外の料理は腕のたつ料理人を配した厨房の和食部が担当している。
おすすめメニュー2

秋の味覚盛り 1,188円(税込)

お酒のおつまみなどとして重宝されている一皿。内容は季節によってさまざまで、秋は焼きサンマ、マイタケの天ぷら、サトイモの衣かつぎ、栗、銀杏などが蓮の葉を模した皿に彩り良く並ぶ。上に乗せた米はポップコーンのようでおいしく食べられる。
おすすめメニュー3

酢の物(コース料理の一部)

先付、前菜、お造り、中皿、煮物、蒲焼、水菓子などを楽しめるコース料理の一品として提供される酢の物は口直しに最適。季節の素材を活かし、酢を効かせ過ぎないまろやかな味つけがやさしい。写真は半生のサンマが主体の秋バージョン。ほかにタコ、カニ棒、季節の野菜が盛られ、菊花と大根おろし、マイクロトマトが彩り鮮やか。木の葉を象ったショウガなど目にも楽しい。
  • お店紹介

    「伝統を守りつつ若い方にも来ていただけるお店に育てたい」と語る9代目女将の土肥好美さん

     江戸中期、つまり江戸幕府第8代将軍、徳川吉宗公の時代から、東京・上野で鰻割烹一筋に商いを続ける「伊豆榮」。その昔、不忍池で天然のウナギが獲れた頃にはそれを使い、その後は各地から天然ウナギを取り寄せ、さらに天然ものが手に入らなくなってからは国内の養鰻業者を厳選し……というように、一貫して国産の活鰻にこだわり続けている。
     「現在は愛知県三河一色町のウナギを使っています。一色町は、全国的にも養鰻業に力を入れており、良質の水と土に恵まれた天然に近い環境でウナギを育てています」と紹介するのは、2015年に正式に9代目女将となった土肥好美さんだ。土肥さんは、「炭にもまた強いこだわりがあり、紀州備長炭を主体に良質の炭を組み合わせています。先代が和歌山の竃まで見に行って選んだ備長炭は、ウナギをおいしく焼くためには欠かせないものです」と続ける。
     本店は上野駅から徒歩5分ほどの場所にあり、地元の常連客に加え、上野公園内やその周辺に点在する美術館や博物館はじめ多様な文化施設を訪れる観光客、さらに近年は諸外国からの訪日外国人客なども多数訪れる。最も賑わうのは初詣客などが上野に集まる1月2日で、この日の客数は1,000人を超える。数年前にはウナギの原価の高騰を受けて各メニュー価格を倍近くに値上げしたが、それでも変わらぬ客足を維持。「私どもは真心こめてお迎えするだけ。多くの方々に来ていただけるのはありがたい限りです」と土肥さんは言う。
     今後はアルコール類の充実や通販にも力を入れていく予定。伝統を大切にしつつも、より多くの人が来店しやすい工夫を続ける「伊豆榮」には、今日も絶え間なく、多くの人が足を運んでいる。
  • 基本情報

    店名 伊豆榮 本店
    住所 東京都台東区上野2-12-22
    電話 03-3831-0954
    営業時間 11:00~22:00(L.O21:30)
    定休日

    12月31日、1月1日、ほか1日

    席数

    270席

    主な客層

    近隣住民、観光客、接待客

    予算の目安 昼 3,000円 
    夜 6,000〜7,000円
    (コースだと10,000円前後〜)
    1日の客数 最大1,000人 以上
    開業 江戸時代中期
    HP http://www.izuei.co.jp/about/
  • 掲載内容は取材時点での情報であり、記事内容、連絡先、営業時間などが変更になる場合があります。