梅酒づくりに氷砂糖を使う理由とは?

初夏になると店頭で目にする機会が多くなる梅は、疲労回復に効果的でこれから暑くなる季節にぴったりな果実です。梅干しや梅酢など梅の加工品は様々ありますが、中でも梅酒は甘さと酸味が絡み合った口当たりの良さで、世代・性別問わず人気のお酒です。
作り方はホワイトリカーと氷砂糖を合わせた液に梅の実を漬け保存し、その間氷砂糖がゆっくり溶け、飲み頃になるまで3か月から半年ほどかかります。しかしなぜ梅酒づくりには、溶けやすいグラニュー糖ではなく、溶けにくい氷砂糖が使われるのでしょうか?
解説
これには「浸透圧」による水分の移動が関係しています。「浸透圧」とは2つの濃度が異なる液体が、半透膜(小さな水分子は通すけれども、水に溶けている砂糖などの大きな分子は通さない、一定の大きさ以下の分子を透過させる膜)を介して隣り合った時に、濃度を一定に保とうとする作用が働き、濃度の薄い方から濃い方に水分が移動する圧力のことを言います。
漬けたばかりの氷砂糖がそれほど溶けていない状態では、浸漬液の糖度は梅の糖度より薄いため、浸透圧により水分やアルコール分が梅の中に移動し、梅が少し膨らみます。その後、氷砂糖が少しずつ溶け出し、梅の実よりも浸漬液の糖度が濃くなると、今度は逆に梅の実からエキスや芳香成分と結びついたアルコールや水分がゆっくりと放出されます。こうした2段階の浸透圧の働きで、梅の中の水分と浸漬液がゆっくり入れ替わることによって、香り豊かなコクのある美味しい梅酒へと変化していくのです。
もし氷砂糖ではなく、溶けやすいグラニュー糖を使用した場合どうなるでしょうか? 梅はいきなり糖度の高い液に漬けられることになるので、浸透圧により糖度を合わせようと急激に梅の水分は外へ出され、硬くしなびてしまいます。このようなことを防ぎ、梅の酸味と香りを十分に浸漬液の方に引き出すためには、ごく薄い糖度の液から少しずつ濃くしていくことが望ましく、ゆっくり溶ける氷砂糖が適しているというわけです。
材料も作り方もシンプルで初めての方でもチャレンジしやすい果実酒、梅酒。自分で作ると味わいはもちろんのこと、熟成していく過程も同時に楽しむことができます。お家時間の多い今年は、自家製梅酒づくりに挑戦してみてはいかがでしょうか?

マンガ制作:ad-manga.com

参考文献
  1. 「新装版 『こつ』の科学」 杉田 浩一 柴田書店
  2. 「食を中心とした化学」 北原 重登 他 東京教学社

豆知識

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