【こく味の話-Vol.4】 長期熟成におけるこく味の生成

様々な食品に存在する「こく味」。これまで食品の「こく味」に関係する成分としてピラジン類やペプタイドについて解説してまいりましたが、他にも「こく味」に関係する成分はまだまだたくさんあります。例えばチーズや味噌など長期熟成食品における「こく味」とはどのようなものなのでしょうか。

長期熟成過程で強くなる「こく味」

弊社では「こく味」の強い食品を研究する中で、長期熟成食品に着目しました。特にチーズや味噌は一般的に熟成に伴って味が変化することが知られており、長期熟成したチーズやいくつかの味噌では熟成が進行すると共に強い「こく味」が発現しているものがあることが分かりました。
そこで数あるチーズや味噌の中からオランダ北部にある伝統的な手法で造られる長期熟成したゴーダチーズ(図1)と、同じく伝統的な手法で造られる信州の味噌を研究材料として選び、これらの食品の熟成に伴う味の変化と成分の解析を行いました。
官能検査の結果では、チーズも味噌もどちらも熟成途中のある段階から「こく味」が強くなることが明らかになりました。また、その「こく味」は両者とも「複雑な厚みと持続性」という特徴を有していることが分かりました。

(図1)熟成ゴーダチーズ(6週間~7年)の外観

メイラードペプタイドと「こく味」

  • さらに先述のチーズや味噌の熟成途中の試料を研究していくと、これら長期熟成食品の「こく」に関与していると考えられる物質を見つけることができました。それが「メイラードペプタイド」です。メイラードペプタイドは熟成中の微生物のはたらきや環境によって生じてくる成分で、ペプタイドがメイラード反応した化合物であると考えられました。
    そこで熟成チーズからメイラードペプタイドを含む分子量1,000以上の画分を粗精製して0.05%のグルタミン酸ナトリウムの溶液に0.025%添加して官能評価を行ったところ、(図2)に示すように、「厚み」や「持続性」といった「こく味」に関係する評価項目において有意に強く感じられました。熟成味噌においても検証を行いましたが同様の傾向が確認され、メイラード反応したペプタイドがチーズや味噌の複雑な厚みと持続性に関与していることが考えられます。
  • (図2)チーズ抽出ペプタイド(分子量>1,000)のうま味溶液での官能評価結果

メイラードペプタイドの生成と応用

食品の熟成過程ではまず微生物中の酵素の働きによってタンパク質が分解し、様々なペプタイドが生成します。またその後熟成が進むと、熟成初期に生成したペプタイドに対して糖やその他の成分による修飾反応が進行し、ペプタイド側鎖が修飾されたメイラードペプタイドが生成しているものと考えられます(図3)。こういった糖やアミノ酸、またはその分解物によるペプタイド側鎖の修飾反応については知られており、その種類や構造も多種多様です。

(図3)熟成によるメイラードペプタイドの生成機構(イメージ図)

メイラードペプタイドはチーズや味噌だけでなく、熟成や長時間の調理を伴う様々な食品に共通して感じられる「こく味」に関与しているものと予想されます。そこでメイラードペプタイドを利用して長期熟成食品で感じられるような「複雑な厚みと持続性」を付与する目的で開発したのがこく味調味料MP-300です。こく味調味料MP-300は長期熟成食品の熟成中に起こるタンパク質の分解やメイラード反応によるメイラードペプタイドの生成を工業的に再現しました。

  • (図4)はこく味調味料MP-300の添加効果を示したデータです。味噌汁に0.3%添加することにより、持続性や濃厚感が有意に向上し、嗜好性があがることが示されています。こく味調味料MP-300 は「複雑な厚みと持続性」を付与することができ、味噌や醤油といった熟成食品ばかりでなく、カレーやシチューといった調理と熟成を組み合わせたような食品など多くの食品群でお使いいただけます。

    またさらに弊社では、メイラードペプタイドの味覚修飾機能に着目し、塩味増強効果があることを見出しています。

  • (図4)味噌汁におけるMP-300の添加効果
  • 本稿はジャパンフードサイエンス2004年9月号掲載記事を加筆、再構成したものです。