食の安心・安全を確保するうえで、食中毒の危害を防止する取り組みは大変重要なことです。 私たちの身の回りに潜む食中毒とはどのようなものなのでしょうか。
食中毒とは、ウイルスや細菌の付着や有害な物質が付着した食品を食べることによって生じる健康障害のことを指します。
食中毒の健康障害としては、下痢,おう吐,腹痛,発熱などの胃腸炎症状が主体となります。これら症状は発症から数日で緩和する場合が主ですが、稀に重症化し死に至るケースもあります。また、原因物質によっては、二次感染が拡大し、大規模な集団感染に発展してしまうこともあります。
食中毒を原因別に分類すると(図1)の通りとなります。主に細菌、ウイルス、自然毒、化学物質、寄生虫が挙げられますが、我が国で発生する食中毒の約90%は細菌性とウイルス性が原因によるものとなっています。
(図1)食中毒の分類
【年間】
近年の食中毒発生件数及び患者数は、衛生意識の高まりもあり減少傾向にありますが、毎年多くの事例が報告されています。過去には、O157、黄色ブドウ球菌などの細菌を原因とした大規模な食中毒が発生し、2006年や2012年にはノロウイルスが猛威をふるい全国で大流行となりました。
原因別でみると細菌性の食中毒件数、患者数はともに減少する一方で、近年はノロウイルスが毎年高い値で推移しており、特に注目されています。また患者数では2012年のノロウイルスの大流行以降、ウイルス性食中毒が細菌性食中毒の2倍程度を占めるようになりました。これはウイルス性の感染力が高いために事件数あたりの患者数が多いことが影響しています。
H8(1996年) | 腸管出血性大腸菌O157による大規模な集団食中毒事件 |
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H12(2000年) | 低脂肪乳黄色ブドウ球菌食中毒 |
H20(2008年) | 中国製冷凍餃子の農薬成分メタミドホス中毒事件 |
H23(2011年) | ユッケにおける腸管出血性大腸O111食中毒 |
H24(2012年) | 弁当におけるノロウイルス食中毒 |
H29(2017年) | O157による食中毒で女児死亡 |
H30(2018年) | 平昌オリンピックでノロウイルス感染拡大 |
(表1)主な食中毒事件年表
(図2)年次別 食中毒事件数と患者数の推移(出典:食中毒発生状況(厚生労働省))
【月別の事件数と患者数】
食中毒は年間を通じて発生がみられますが、特徴としては、梅雨など高温多湿となる夏場6月から10月頃は細菌性食中毒が多く発生します。この時期の気温や気候が細菌の生育しやすい条件になるためです。
一方11月から3月頃になると主に生カキなどを原因食品とするノロウイルスによるウイルス性食中毒の発生頻度が多くなります。冬場の寒く乾燥した環境がウイルスの感染性を高めるためです。
厚生労働省の発表した平成26年(2014年)の食中毒発生事例速報(H27.3現在)によると、年間977件の事件が発生し、約1万9千人の患者さんが食中毒の被害を受けました。ウイルス性食中毒は2012年の大発生以降は減少傾向にありますが、細菌に比べ感染力が大変高いことから例年に引き続き感染対策の強化が必要です。食中毒の防止対策としては、その流行や特徴をしっかりと把握し、具体的な衛生対策を年間を通じて行うことが重要になります。
(図3)月別 食中毒事件数と患者数(出典:平成30、令和元年食中毒発生状況(厚生労働省))
以上、Vol.1では、食中毒の概要、現状についてお話しました。次回以降のコラムでは、食中毒の種類、その対策について詳しく解説していきたいと思います。