【発酵種(パン種)の話-Vol.4】 イーストと発酵種の違い

パン生地に命を吹き込む酵母の魅力

自然界に存在する酵母菌を培養し、ふっくらおいしいパンをつくるという意味では、“イースト”も“発酵種”も同じです。イーストは発酵力が強く扱いやすいのが特徴であり、発酵種はじっくり手間暇をかける分、自然の豊かで奥深い風味を味わえるのが魅力です。

  • イーストについて
    日々のパンづくりに欠かせない、頼もしい味方。
    自然界には、酵母、カビ、細菌など、多種多様な微生物が生息しています。その中から最も製パンに適したものだけを選別し、工業的に純粋培養した単一種の酵母菌が「イースト」です。 イーストは肉眼では見ることのできないミクロの生き物。独立した1個の細胞で、その直径は4~14ミクロン。顕微鏡の発明によって初めてその存在が明らかにされたのです。例えば“生イースト”には、1g中に100~150億個ものイーストが生きています。 イーストは、体の表面から、生地中にある糖分を栄養源として摂り入れ、体内でアルコールと二酸化炭素に分解し、炭酸ガスを発生します。これが発酵作用であり、イーストの増殖活動の証です。イーストが最も活発に活動する温度は25℃~35℃ぐらい。低温では発酵が鈍く、10℃以下では止まってしまいます。逆に50℃以上では死滅してしまいます。 発酵力が強く、扱いやすく、良好なパンを安定してつくれることから、一般家庭から大量生産の現場まで、いまやパンづくりに欠かせない存在です。現在パン用イーストは、生イースト、ドライイースト、インスタントドライイーストなどが製品化され、世界中で多くのベーカリーや製パンメーカーが利用しています。
  • 発酵種について
    自然の恵みを味わい実感する。それが発酵種の魅力。
    製パンに適した酵母を選抜し、それだけを発酵させたイーストとは異なり、大気中や穀物、果実等についている複数の野生の酵母をそのまま生かして培養し、パンづくりに利用するのが「発酵種」です。つまり、酵母をはじめ、乳酸菌、酢酸菌、麹菌といった多種多彩な微生物が複合的に共存しています。 使われる穀粉やその環境によって生地に含まれる酵母は異なり、おいしさの個性となって表れます。発酵時に有機酸をつくりだし、パンに独特の酸味やこく、風味を与えているのです。 また、イーストと異なり、発酵には長時間を費やし、酵母菌数も発酵状態も安定しないため、扱いが難しい面もあります。微生物の中には人体に有害なものも含まれており、通常は種を作る際に発酵を繰り返すことで死滅していくわけですが、温度、水分、pH管理には、細心の注意が必要となります。 しかしながら、最大の魅力は、使われる酵母によってちがう独特の風味、味、香りの楽しみです。また、食感の豊かさや日持ちの良さも、手間暇かけてつくった発酵種ならではの特徴と言えるでしょう。