【分析データから見た食品-Vol.1】 しょうゆ屋さんのつゆ、かつおぶし屋さんのつゆ

いつもはベロメーターで味わっている食品を科学的に「分析」するとどうなるか?
各種分析機器などを用いて理化学分析を行うと、いつも感じている「味」の裏側がわかることがあります。本コーナーではそのような事例を紹介してまいります。

一言で「めんつゆ」といっても……
夏になるとスーパーの棚をにぎわす「めんつゆ」。最近はそうめんつゆとしてだけでなく煮物などの万能調味料としても活用されています。今回ご紹介するデータは、2013年夏に小売店で入手した市販の濃縮めんつゆを解析した事例です。
市販のめんつゆは大きく分けると、
  1. しょうゆメーカー製
  2. かつおぶしメーカー製 
  3. その他メーカー製
の3つに分けられます。これらの間でどのような風味の違いがあるのか、理化学分析を切り口に解析してみました。

「めんつゆ」の風味と特徴成分

  • 麺をすする過程では、口の中で揮発した香気成分が鼻に抜け、「風味」として感じられます。「風味」は香りよりもむしろ味に近い感覚で認識されると言われています。「めんつゆ」はこの「風味」が大事な食品で、特にしょうゆの風味とだしの風味のバランスによって味の傾向が大きく決まってきます。
    しょうゆの香りを特徴づける成分としてHEMF(4-Hydroxy-2(or5)-ethyl-5(or2)-methyl-3(2H)-furanone)
    という成分が知られています(図1)1,2。また、かつおぶしの燻香を特徴づける成分としてはグアヤコールなどのフェノール化合物類が知られています(図1)3,4。風味のバランスを見るため、この2つの化合物に着目し、GC-SIM法で分析を行い、マッピングしたのが図2になります。各社で風味のバランスが異なるのが見て分かります。
  • (図1)しょうゆと燻香の特徴成分

分析値から見るそれぞれのつゆの特徴

  • 図2を見るとしょうゆメーカー2製品のめんつゆはしょうゆの風味が強い傾向にあり、しょうゆの使用量が多いことが予想されます。かつおぶしの燻香とのバランスはそれぞれで、A社はしょうゆ風味もかつおぶし風味も強いタイプで、B社はかつおぶし風味を抑えてしょうゆ風味を強調したタイプといえます。
    かつおぶしメーカーのC社品はかつおぶしの燻香が強く、しょうゆの香りが中程度のゾーンに位置付けられています。自社の原料の特性を活かし、しょうゆの風味を抑えてかつおぶし感を強調していると考えられます。
    一方、調味料メーカーであるD社のつゆはしょうゆ風味もかつおぶし風味も控えめなゾーンに位置付けられます。どちらの風味も突出することなくバランス重視で風味を仕上げていると考えられます。
    このように、理化学分析によって製品をマッピングしたり、原料の特徴を明らかにしたりすることが可能になります。より詳しくお知りになりたい方はお近くの弊社営業担当者までお問い合わせください。
  • (図2)香気成分のバランス(燻香としょうゆ香)
    SPME-GC-SIM法で分析を行い、内部標準物質とのピーク比による相対値で示した。
参考文献
  1. 横塚 保ら、日本醸造協会誌 75(6)、516-522(1980)
  2. 布村 伸武、日本醸造協会誌 101(3), 151-160(2006)
  3. 榊原 英公、水産物のにおい、水産学シリーズ74,p.72(1989)
  4. 金知子ら、日本農芸化学会誌 45(7), 328-336(1971)