酵母は、私たちの生活の中で、古代からパンやお酒などに使われており、とても馴染みの深いものです。昨今の食品を取り巻く様々な環境、すなわち、食の社会的背景、消費者ニーズ、市況などの様々な観点に対し、酵母や酵母エキスは答えることができる食品素材として市場で受け入れている素材の一つです(表1)。
背景 | 課題/ニーズ | 求められる素材 |
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天然資源の減少 | 畜肉様の呈味再現が難しい |
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魚介様の呈味再現が難しい | ||
乳の代替え(補強)が難しい | ||
ボタニカル製品の拡大 | ||
植物たん白使用製品の拡大 | ||
健康訴求 | 減塩、減脂、低糖食品の更なる拡大 |
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高たんぱく食品の市場拡大 | ||
家食需要の高まり (通販・デリバリー) |
(冷蔵・常温品) 出来立て状態の呈味再現 |
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(冷凍品) 再加熱時の風味ダウン |
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高級感、本物の味を求める (有名専門店、旅行先…) |
(表1)食品を取り巻く環境
調味料等の食品用途で使用されている酵母は、トルラ酵母(Candida utilis)、ビール酵母(Saccharomyces pastorianus)、及びパン酵母(Saccharomyces cerevisiae)の3種類があります(表2)。
酵母種 | 特長 |
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トルラ酵母 Candida utilis (Cyberlindnera jadinii) |
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ビール酵母 Saccharomyces cerevisiae (Saccharomyces pastorianus) |
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パン酵母 Saccharomyces cerevisiae |
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(表2)加工食品で使用されている酵母
「酵母」という呼称は科学的なものではなく、果汁など、糖質を含む液体が自然に醸され、アルコールと二酸化炭素を生じる際の「液面の膜」の呼称と言われています。「液面の膜」とは言っても、当然ながら、カビ・バクテリアなどの雑多な微生物も含まれています。分類学的に見れば、そのほとんどが子のう菌類に属し、一部、担子菌類に含まれる種があります1。Lodderの分類書2によれば、39属、340種類に分けられていますが、その数と分類は現在でも学会で議論されているようです。
酵母の細胞は、細胞小器官(オルガネラ)を有する「細胞質」、それを包む薄い「細胞膜」、さらにそれを覆う厚い「細胞壁」で構成されています。細胞質には、核(nucleus)、ミトコンドリア(mitochondrion)、マイクロボディ(microbody)、小胞体(endoplasmic reticulum)、液胞(vacuole)、および高等動物にみられるゴルジ体様のゴルジ膜(Smooth endoplasmic reticulum)が存在します。
酵母はそれ自体、実にバランスのとれた食品素材です。(表3)にビール酵母および穀類・肉類の栄養成分分析値例を示しました3。酵母の栄養成分は、たん白質が全卵とほぼ同等で、肥満に影響する脂質が肉類よりかなり少なく(米・小麦より若干が多い)、血糖値に影響する炭水化物が穀類より圧倒的に低く(肉類よりやや多い)、食物繊維が穀類・肉類よりかなり多いことが特徴です。
ビール酵母 | 穀類(@固形) | 肉類(@固形) | ||||||
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大豆 | 米 | 小麦 | 牛肉 | 豚肉 | 鶏肉 | 全卵 | ||
水分(%) | - | 11.7 | 15.5 | 14.0 | 64.4 | 71.2 | 72.3 | 76.1 |
たん白質(%) | 49.7 | 33.0 | 6.1 | 8.0 | 55.6 | 74.7 | 79.4 | 51.5 |
脂質(%) | 4.5 | 21.7 | 0.9 | 1.7 | 39.9 | 20.8 | 17.3 | 43.1 |
炭水化物(%) | 7.6 | 28.8 | 77.1 | 75.9 | 1.7 | 0.7 | 0.0 | 1.3 |
食物繊維(%) | 30.5 | 15.9 | 0.5 | 2.5 | - | - | - | - |
灰分(%) | 6.0 | 4.8 | 0.4 | 0.4 | 2.8 | 3.8 | 3.2 | 4.2 |
エネルギー (kcal/100g) |
270 | 433 | 356 | 368 | 618 | 514 | 498 | 632 |
(表3)ビール酵母、穀類、肉類の一般栄養成分値例
トルラ酵母(Candida utilis)は、第一次世界大戦中、ドイツが食糧資源、特にタンパク質確保のために製造を開始して以来、食品・飼料用酵母として利用されるようになりました。現在トルラ酵母は、ドイツで栄養補助食品として利用されている他、アメリカではFDA(Food and Drug Administration:米国連邦食品医薬品局)がその安全性を認めており、世界各国で数多くの食品に利用されています4。
(図1)に当社のビール酵母の特性値例を示しました。一般栄養成分に加え、核酸等の呈味に関係する成分、グルタチオンなどの機能成分をはじめ、ビタミン、ミネラルなども豊富に含んでいます。
(図1)酵母中の主な成分
弊社は、酵母の製パン、醸造などの発酵用以外の用途として、酵母の総合利用という観点で、乾燥酵母、酵母エキス、および酵母細胞壁の3つの素材を加工食品向けに製造・販売しております(図2)。ビール酵母を乾燥させて得られる乾燥酵母は、その栄養価の高さから、主に健康食品、飼料用途などに活用されています。乾燥酵母をさらに加工しますと酵母エキスと酵母細胞壁が得られます。酵母エキスは、主に調味料や微生物生育用の培地として、酵母細胞壁は、コーティング剤・包摂剤、食品・飼料用機能素材などとして活用されています。
(図2)醸造後のビール酵母から得られる3種類の素材
以上、Vol.1では、酵母利用の概論として、酵母の種類、構成成分、加工と用途を中心にお話しました。次回以降のコラムでは、酵母由来の各種素材の製法・用途について詳しく解説していきたいと思います。