わが国には、味噌、醤油、酢、みりん、だしなどの伝統的な素晴らしい調味料が存在します。
近代化に伴い、だしから発展した核酸やグルタミン酸ソーダなどのうま味調味料(当社では「いの一番」、「リボタイド」など)が普及し、時代の変遷と共に、アミノ酸系調味料、たん白加水分解物、水産・動物エキス、酵母エキスなどの調味料が食品の味作りに貢献してきました1。これら調味料のうち、うま味調味料、たん白加水分解物、そして酵母エキスの3つの調味料は、味のベースを組み立てる調味料として、現代のさまざまな加工食品で重要な役割を担っています(図1)。酵母エキスは、食品の味や風味を特徴づけるための重要な役割を果たしています。
(図1)加工食品の味のベースを形成する調味料
では、食品の味や風味を特長づけるための酵母エキスはどのように作られるのでしょうか?
酵母エキスは、酵母をエキス化(可溶化して抽出する)して得られる調味料です。そのエキス化の方法には、生きている酵母自身が持つ酵素による「自己消化法」、外来の酵素を加える「酵素分解法」、自己消化法と酵素分解法を併用する方法、熱水等で単純に抽出する「抽出法」などがあります。それぞれの製法によって得られる酵母エキスの特長を(表1)にまとめました。
エキス化方法 | 特長 |
---|---|
熱水抽出 |
|
自己消化 |
|
酵素分解 |
|
(表1)酵母のエキス化方法
酵素分解法は、食品の風味作りにおける様々なニーズにフレキシブルに対応するために重要な技術です。(表2)に酵母エキス製造に使用される代表的な酵素をまとめました。細胞壁を溶解する「グルカナーゼ」、たん白を溶解(分解)してペプチドやうま味成分であるグルタミン酸をはじめとして様々なアミノ酸を作り出すプロテアーゼやペプチダーゼ、核酸(RNA)を分解してうま味成分である5´‐イノシン酸や5´‐グアニル酸を作り出す5´‐ホスホジエステラーゼやデアミナーゼ等、さまざまな酵素が使用されています。酵素の種類、分解条件によって、多様な成分や風味が作り出されます。
酵素名 | 起源 | 用途 |
---|---|---|
グルカナーゼ | Bacillus subtilis Arthrobacter sp. |
細胞壁溶解 |
プロテアーゼ | Bacillus subtilis Bacillus stearothermophilus Aspergillus oryzae Rhizopus niveus |
たん白溶解 |
ペプチダーゼ | Rhizopus oryzae | たん白分解 ペプチド製造 苦味除去等 |
デアミナーゼ | Aspergillus mellus | イノシン酸生成 |
5’-ホスホジエステラーゼ | Penicillium citrinum | 核酸分解 |
(表2)酵母エキスの製造に使われる主な酵素
酵母エキスの加工食品等における生産量は、食品化学新聞社の調べでは、2021年の市場規模は1万4,530トンで、対前年伸長率は3~6%となっています。この10年間は毎年右肩上がりの成長を維持しており、味のベースとして重要な存在となっています。当社では、お客様のさまざまな要望・用途に対応するために、酵母エキス特有の複雑さの付与や、味の出方、うま味の強度を変える「プレーンタイプ」、調理香の風味を再現または増強する「リアクションタイプ」など、原料や製造法に創意工夫を凝らした特長ある酵母エキスを提供させていただいております(図2)。
(図2)弊社の主な酵母エキス
プレーンタイプは、主に酵素分解法、自己消化法、及び抽出法で製造しています。リアクションタイプは、酵母エキスなどを組み合わせ、実際の調理や熟成を想定した条件で処理することで、調理香(クッキングフレーバー)を作り出した製品です。
食品の調理や保存(熟成含む)においては、調理時のいわゆるクッキング反応や保存による酵素的・非酵素的反応など、さまざまな成分間反応が生じており、食品のフレーバー、すなわち「調理香」の生成に重要な役割を担っています2。例として、クッキング反応による肉様フレーバーの生成イメージを(図3)に示しました345。
(図3)肉様フレーバーの生成イメージ
(図4)に食品の調理における加熱香気生成についてまとめました。食品に自然に含まれる糖、アミノ酸、たん白質、脂質、核酸などの成分が、一般的な調理時の加熱によって、さまざまな調理香が作り出されていることがわかります。弊社は、長年培ってきた調理香の創生技術を駆使した様々な製品をお客様にご提案しています。
(図4)食品の調理における加熱香気生成について
今回は酵母エキスの周辺技術について、各種エキス化方法から調理香に至るまでお話いたしました。次回のコラムでは、酵母細胞壁「イーストラップ」の機能性、用途について解説していきます。