食の安心・安全を確保するうえで、食中毒の危害を防止する取り組みは大変重要なことです。私たちの身の回りに潜む食中毒とはどのようなものなのでしょうか。
第2回目のコラムでは、食中毒の種類とその特徴について解説いたします。
食中毒発生状況として、近年は事件数、患者数ともにノロウイルスが占める割合が高くなっています。
ノロウイルスは非常に感染力が高いため大規模な食中毒事件になる場合が多く、対策としては徹底した衛生管理が求められます。また2000年頃までは腸炎ビブリオ、サルモネラ、病原性大腸菌による事件が多く発生していましたが、その後の厚生労働省を主とした衛生管理体制の強化により発生頻度は減少しています。一方、カンピロバクターについては2011年の大規模食中毒事件をきっかけとした肉の生食(牛ユッケやレバー)禁止により事件数は減少傾向にあるものの、ノロウイルスに次いで件数は多くなっています。
なお、食中毒の主な原因はウイルス性及び細菌性によるものですが、アニサキスといった生鮮魚介類に付着した寄生虫を原因とする食中毒の発生も近年ではみられます。細菌性、寄生虫、自然毒などの食中毒は特に肉や魚の生食を原因とする場合が多いため調理加工の際は十分な注意が必要です。
(図1)病因物質別食中毒発生状況の推移(発生件数)(出典:厚生労働省HP)
(図2)病因物質別食中毒発生状況の推移(患者数)(出典:厚生労働省HP)
続いて、細菌性及びウイルス性食中毒の主な原因微生物の特徴とその予防策について説明します。
主な細菌性食中毒原因微生物の特徴とその予防策を(表1)と(表2)に示しました。
細菌性食中毒は、細菌の特徴から感染型と毒素型に大別されます。感染型は細菌が体内に入り込み腸内で増殖することで食中毒を招き、毒素型は細菌が発生する毒素を食することで食中毒を招きます。発生要因としては食材の温度管理の不備、手指からの二次汚染、厨房器具の洗浄不足が大半をしめますが、これらは食品の十分な加熱や二次汚染の防止などを徹底することで防ぐことができます。
感染型 | |||||
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カンピロバクター | サルモネラ | 腸炎ビブリオ | 病原性大腸菌 | ウェルシュ菌 | |
感染源 | 家畜(鶏、牛)、ペット | 卵、家畜(鶏、牛、豚)など | 魚介類 | 家畜(牛、豚)、下水、土壌など | 家畜、魚介類 |
原因となる 食品例 |
食肉(特に鶏)、野菜、井戸水やわき水など | 生卵、オムレツ、レバ刺、牛肉のたたきなど | さしみ、寿司など | 肉、野菜、井戸水など |
カレー、シチューなど 煮物(特に肉が入ったもの) |
特徴 | 乾燥や加熱に弱い、低温には強い | 乾燥に強く加熱に弱い | 塩分を好む、低温や加熱に弱い | 加熱に弱い | 芽胞を形成し加熱に強い |
症状 | 下痢、発熱、腹痛、吐き気など | 腹痛、水様性の下痢、発熱など | 腹痛、下痢、発熱、吐き気 | 腹痛、下痢(出血性の場合も)、発熱 | 腹痛、水様性の下痢 |
潜伏期間 | 2~7日 | 12~24時間 |
通常10~18時間 早くて2~3時間 |
4~8日 | 6~8時間 |
対策 |
肉と他の食品との接触を防ぐ。 肉は十分に加熱する。 |
卵、肉は十分に加熱する、低温で保存する。 卵の生食は新鮮なものに限る。 |
魚介類は調理前によく洗う。 加熱調理の場合は中心部まで十分加熱する。 生食の場合は専用の調理器具を使用する。 |
生野菜はよく洗う。 肉は中心部まで十分加熱する。 |
加熱調理した場合は室温で放置せず低温で保管する。 |
手指や調理器具は十分に洗浄・消毒する。二次汚染には注意する。 |
(表1)細菌性食中毒原因微生物の特徴とその予防策(感染型)
毒素型 | ||
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黄色ブドウ球菌 | セレウス菌 | |
感染源 | ヒトの化膿傷、鼻孔など | 農作物(野菜や穀物)、水など |
原因となる 食品例 |
穀類・その加工品、弁当、魚肉ねり製品など | 食肉、ピラフ、野菜、スパゲティーなど |
特徴 |
耐塩性が高い 毒素(エンテロトキシン)は熱に強い |
芽胞を形成し加熱に強い |
症状 | 吐き気、嘔吐、下痢 | 毒素の種類によって下痢型と嘔吐型がある |
潜伏期間 | 1~5時間以内 |
下痢型:8~16時間 嘔吐型:0.5~6時間 |
対策 | 手指に傷がある場合は食品に直接触れない。 |
穀類の食品は調理後常温保存せず低温保管する。 長期保存は避ける。 |
手指や調理器具は十分に洗浄・消毒する。二次汚染には注意する。 |
(表2)細菌性食中毒原因微生物の特徴とその予防策(毒素型)
ウイルス性食中毒の90%以上はノロウイルスによるものとなりますので、ここではノロウイルスについてお話しします。ノロウイルスは細菌と異なり、非常に強い感染力を持ち、食品中では増えず人の体内でしか増えないという特徴があります。
ノロウイルスの主な感染経路を(図3)に示しました。二枚貝などの食品を介した感染以外にも、保菌者のわずかな糞便・嘔吐物が手などに付着しただけで感染し多くの患者数を出す食中毒事件につながる恐れがあります。事例としても、ウイルスに感染した食品取扱者を介しての発生が多くみられ、学校、施設、事業所で大規模発生が起きているのが特徴です。
なお、二枚貝がノロウイルスの汚染源となりやすい要因としては、二枚貝がエサと同時に海水中のウイルスを取り込むことで体内で濃縮されるためと考えられています。
(表3)にはノロウイルスの特徴と予防策を示しました。ノロウイルスは細菌と比べると、より高いレベルの衛生管理が求められます。うがい、手洗いといった個人の衛生管理から施設の清掃・消毒などを日常的に実施していくことが対策として非常に重要となります。
(図3)ノロウイルスの主な感染経路
感染源 | 二枚貝、飲料水 |
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原因となる食品例 | 十分に加熱されていないカキ、アサリなど |
特徴 |
熱に弱い 手指や調理器具を介して二次感染する |
症状 | 吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、発熱 |
潜伏期間 | 24~48時間 |
対策 |
85℃以上1分以上加熱する。 調理器具類の消毒と作業前の手洗いを徹底する。 |
(表3)ノロウイルスの特徴と予防策
以上、Vol.2では食中毒原因微生物の特徴およびその予防策について解説しました。食中毒を防止するためには個々の微生物における対策はもちろんのこと、調理現場における衛生管理の徹底が不可欠となります。
そこで次回は具体的な施設の衛生管理方法について詳しく解説したいと思います。