D-アミノ酸のお話し、第3回目です。Vol.2では、D-アミノ酸の食品中の所在について紹介しましたが、今回は食品の味にどのような効果を示すのか?というお話を次回Vol.4とあわせてしたいと思います。キーワードは「まろやかさ」と「カドとり」です。
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D-アミノ酸は甘味とうま味を強くする
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「D-アミノ酸」は(表1)に示しますように、それぞれ甘味や酸味、苦味を持っているものがあります。しかし実はD-アミノ酸は、味を感じない極めて薄い濃度でも食品の味に影響を及ぼすことがわかってきています。味を感じる最低濃度のことを「閾値」と呼びますが、「閾値」より低い濃度でも「D-アミノ酸」は味の感じ方を変えることできるのです。まずは、5種類の基本味(塩味、酸味、甘味、苦味、苦味)のうち、甘味とうま味への効果を見てみたいと思います。
(図1)はD-プロリン(D-Pro)の甘味とうま味への効果を示した図です。甘味は4%の砂糖溶液を、うま味は0.5%のグルタミン酸ナトリウム(うま味調味料)溶液を使いました。それぞれに鏡像異性体の関係であるL体とD体(【D-アミノ酸の話‐Vol.1】参照)のプロリン(Pro)を閾値以下の濃度で加えて人になめてもらい、それぞれの味の感じる強さを点数にしてもらったものです。
その結果D-Proに、L-proにない甘味とうま味を強くする効果が認められたのです。また味は口の中で長く続くこともわかりました。
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D-アミノ酸 |
閾値1(mM) |
閾値より上の濃度での味質2 |
Ala |
11.2 |
甘味 |
Ser |
64.8 |
甘味 |
Thr |
33.7 |
甘味 |
Met |
5.0 |
甘味、苦味 |
Val |
2.95 |
甘味、苦味 |
Leu |
5.01 |
甘味、苦味 |
Ile |
12.5 |
- |
Phe |
1.55 |
甘味、苦味 |
Trp |
0.48 |
甘味 |
Asp |
0.74 |
酸味 |
Glu |
0.076 |
酸味 |
Asn |
9.77 |
甘味 |
Gln |
3.47 |
甘味 |
Lys |
1.33 |
- |
Arg |
1.62 |
苦味、甘味 |
Pro |
60.4 |
甘味、苦味 |
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Physiology & behavior 27 p.51-59(1981)
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Amino Acids 43 2349-2358(2012)
(表1)D-アミノ酸の味
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D-アミノ酸は塩味、酸味、苦味を感じにくくする
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5つの基本味の残り3種類は塩味、酸味、苦味です。これらもD-アミノ酸によってその味の感じ方に影響を受けることがわかっています。(図2)にその効果を示しました。酸味は0.025%のクエン酸(レモンの酸味)溶液を使い、塩味は1.0%の食塩水、苦味は0.075%のカフェイン(コーヒーの苦味)溶液を使っています。それぞれにD型とL型のアスパラギン酸(Asp)とグルタミン酸(Glu)を加えて甘味とうま味のテストと同じように、人による味の感じ方の強さを点数にしています。ごらんの通りどの味においても、D-アミノ酸はL-アミノ酸に比べて味の感じ方を弱くする傾向が認められています。
(図2)D-AspとD-Gluの酸味、塩味、苦味の抑制効果
以上のようにD-アミノ酸には、味の種類によって強くしたり感じにくくしたりする能力があるのです。実はD-アミノ酸はこの性質により、食品の味を好ましくする力を秘めているのです。
次回Vol.4では、冒頭キーワードであげていた「まろやかさ」と「カドとり」の効果を紹介し、どのようにして食品の味を好ましくしているかを紹介しましょう。
参考文献
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井上裕 等:日本食品科学工学会第60回大会講演(2013年)