【D-アミノ酸の話-Vol.2】食品とD-アミノ酸

D-アミノ酸の話、第2回目です。Vol.1では、D-アミノ酸の正体について紹介しましたが、今回はそれはいったいどこにあるのか?というお話をしたいと思います。実は、我々が普段口にしている多くの食品の中に含まれているのです。

様々な食品に含まれるD-アミノ酸
アミノ酸には「L-アミノ酸」と「D-アミノ酸」という鏡像異性体(光学異性体)が存在することは前回ご紹介しました。最近、この二つを分画する技術は急速に発達しており、様々な食品での分析が進んでいます。野菜や果物などの植物体は、土中から吸収して保有していると考えられ、肉類や魚介類などの動物は、自ら持っている「L-アミノ酸」を「D-アミノ酸」に変える「ラセマーゼ」という酵素の働きで「D-アミノ酸」を作っていると考えられています。そんな中、最近特に注目されているのが発酵食品です。発酵食品とは、味噌や醤油、ヨーグルトなど微生物の働きによって作られ、独特の味や香りを持っている食品です。(表1)にこれまでに調べられている主な発酵食品に含まれる「D-アミノ酸」の分析結果を示しました。
食品名 D-Ala
(Ala:アラニン)
D-Asp
(Asp:アスパラギン酸)
D-Glu
(Glu:グルタミン酸)
D-Pro
(Pro:プロリン)
ヨーグルト 13.5 3.1 10.9 n.d.
ワイン 1.3 0.6 1.5 n.d.
バルサミコ 40.2 41.6 21.0 191.9
醤油 22.3 - 4.4 -
味噌 25.8 - 19.1 -

(表1)発酵食品に含まれるD-アミノ酸

  • ※1 n.d.は未検出、-は未測定。
  • ※2 ヨーグルト、ワインは文献1.、バルサミコの引用は文献2.、醤油、味噌は文献3.から一部抜粋改変
  • 文献1. Nutrition Reserch,14,no.3,p445-463,1994
  • 文献2. Z Lebensm Unters Forsch A 207:400-409,1998
  • 文献3. Journal of nutritional science and vitaminology 56(6), 428-435, 2010
また、私たちは“寝かせる”ことによっておいしくなると言われている専門店のカレーや老舗のそばつゆについても、D-アミノ酸の分析をしてみました。その結果は(図1)に示しますように、自宅で作ったカレーや市販のそばつゆより多くのD-アミノ酸が含まれるというものでした。
このように、D-アミノ酸は多くの食品に含まれており、その味に影響していることが予想されます。その効果については、次回以降紹介していきたいと思います。
  • 専門店のカレー
  • 老舗のそばつゆ

※ D-アミノ酸相対値:市販品に含まれるD-アミノ酸含量を1とした時の比較区のD-アミノ酸の値

(図1)発酵食品に含まれるD-アミノ酸

伝統的な醤油製造とD-アミノ酸
醤油にはかなりの量のD-アミノ酸が含まれていることが多くのデータで示されていたので、私たちは醤油メーカーと共同で、その製造中にD-アミノ酸が作られてくるかを確認をしてみることにしました。醤油の作り方を簡単に示すと、(図2)のようになります。仕込み後5~6ヵ月間におよぶ発酵熟成期間中のD-アミノ酸量を分析したところ、仕込み後3週間までの初期に急速に増え、その後はほとんど変わらないことが分かりました。また、その時期には乳酸菌が急速に増殖していることから、乳酸菌がD-アミノ酸の生成に関与していることが示されました。このように伝統的な方法で作られる日本の醤油は、その独特な製造工程の賜物としてD-アミノ酸を蓄積させ、醤油のおいしさの一翼を担わせていることがわかりました。

(図2)醤油製造工程の概略

次回Vol.3では、D-アミノ酸の食品の味への効果についてご紹介したいと思います。

参考文献
  • 大森 勇門 等:日本生物工学会誌 2012年 第3号 p.135
  • 原圭志 等:日本食品科学工学会第61回大会講演