(東京都/港区)
イタリア料理の老舗や名店があまた集まる東京・麻布十番でも、陽気で飾らないイタリアの食堂の空気感を感じさせる人気店が「トラットリア・ケ・パッキア」です。毎日のように内容が変わる黒板メニューには、パスタマシンを使わずに麺棒で延ばした伝統製法の手打ちパスタや、珍しいイタリア地方料理が種類豊富に並びます。今回は厨房を仕切る酒井辰也シェフがイタリア・ボローニャの名店「ダ・アメリーゴ」で習得した、冬のパスタのスペシャリテ「トルテッリーニ・イン・ブロード」について伺いました。
クローズアップメニュー

トルテッリーニ・イン・ブロード 2,200円(税込)
美しく澄みきった黄金色のブロードに、ひとつひとつ手包みされた小粒のパスタ〝トルテッリーニ〟がたっぷり入った、ボローニャ地方の郷土料理です。寒さが厳しくなる12月ごろから食卓に出される冬の季節料理で、熱々のスープとともに食べるとからだが芯まで温まります。ボローニャでは代表的な日曜日の料理、クリスマスの定番メニューとして、人々に愛されています。
丁寧に下処理し、8時間かけて炊き上げたブロードは繊細で滋味深い味。たっぷりブロードを吸ったトルテッリーニは、もっちりと心地良い歯応えの生地と、生ハムやモルタデッラ、パルミジャーノ・レッジャーノを合わせた詰め物の熟成感ある味わいで、冷めるのを惜しむように一気に食べ進めてしまいます。
技のポイント1




ブロードを炊く:ブロードは玉ネギの外皮を付けたまま炊いて美しい黄金色に仕上げます
ブロードの材料は、丸鶏を4分割したももの部分を1本、皮付きの玉ネギ1と1/2個、皮付きのニンジン1本、セロリの葉、パセリの茎、海塩、ローリエ。1回の仕込みで6リットルのブロードを作ります。
鶏肉は水から弱火で炊きはじめて下茹でし、沸騰したら湯を捨てます。次は鶏肉とその他の材料を入れて水から弱火で約8時間炊いていきます。沸騰する直前の状態を維持させ、水位が下がってきたら水を足していきます。玉ネギの外皮を付けたまま炊くことで、美しい黄金色のブロードに仕上がります。
技のポイント2






詰め物を作る:始めは肉だけで挽き、材料を練り合わせてから再び挽いて一体感ある味にします
材料は豚ロース肉、生ハム、モルタデッラ、パルメジャーノ・レッジャーノ、ナツメグ、塩、全卵液です。
まず豚ロースは塩を振ってソテーしてからカット、生ハムとモルタデッラは小さくちぎってミンサーで挽いていきます。そこに残りの材料を加えて全体が馴染む程度に軽く練り合わせます。それをもう一度ミンサーにかけてなめらかなペースト状にしたら、丸めてラップで包み、冷蔵庫で1時間程度冷やします。冷蔵することで肉の脂が固まって溶けづらくなり、パスタに詰めるときにちぎりやすくなります。
技のポイント3




手打ちパスタ:グルテンを極力抑えて軽い食感に仕上げます
材料は国産の強力粉と薄力粉を各500g、全卵3個、塩、水。ボウルに全てを入れて手でこねていきます。麺棒を使って手作業で伸していくため加水をやや多くし、柔らかめに仕上げます。グルテンを出し過ぎないように軽く練り合わせる程度を心がけます。練りあげたらラップで包んで15分ほど寝かせ、生地を落ち着かせます。
麺打ち台に打ち粉を振って生地玉を麺棒で伸ばしていきます。
技のポイント4





詰め物を詰める:1つひとつ手作業でパスタ生地をリング状に丸めていきます
生地の厚さが1ミリ程度になるまで伸ばしたら、パスタカッターを使って2.5センチ四方の正方形にカットしていきます。ここで生地を完全に切り離してしまわないように注意します。切り離してしまうと生地が不均一に縮んでしまい、詰め物を包みづらくなってしまうからです。
詰め物は親指の爪程度の大きさにちぎってパスタ生地に並べ、1個1個丁寧に包んでいきます。生地を三角形に折りたたんで端をつまんでつないだら、折り目の両角を指先でリングを作るように合わせてつなぎます。
30〜35個を包んでようやく1食分。たいへん根気の要る作業ですが、スタッフ同士おしゃべりしながら楽しく過ごしているそうです。
技のポイント5





最終調理:軽く茹でたトルテッリーニに、ブロードを注いで完成です
1食分のブロードを手鍋に取り分けて温め、海塩を加えて味を調えます。トルテッリーニはたっぷりの湯を沸騰させて投入し、ゆで時間は1〜2分程度。軽く湯を切って皿にうつし、熱々のブロードを注ぎ入れて完成です。
オススメメニュー1

タリアテッレ・ボロネーゼ 1,650円(税込)
ミートソースというよりハンバーグを崩したという表現がぴったりの肉々しさが特徴のパスタです。肉は牛と豚を1:1の割合で店内で粗挽きし、塩・コショウのみで調味。一度軽く練り合わせてピンポン球状のミートボールにしてフライパンでしっかりと焼き上げ、その後にトマトペーストと白ワインで軽く煮込みながら崩していきます。肉に焼き色を付けて中までしっかり熱を入れて肉のうま味を最大化。赤ワインで煮込んだものとは異なり、酸味の効いた軽やかな味です。タリアテッレも、トルテッリーニと同様に手打ちしています。
オススメメニュー2


タマゴのスフレ トリュフがけ 4,400円(税込)※トリュフによって値段変動あり
酒井シェフの修行先であるエミリア・ロマーニャのレストラン「ダ・アメリーゴ」のスペシャリテを再現。フワフワとふくらんだメレンゲの上をおおうようにトリュフがかけられたかわいらしい一品。ナイフを入れると黄身がとろりと流れ出てくる演出も見事です。タマゴとトリュフの相性抜群の味わいに加えて、メレンゲのエアリーな食感、半熟の黄身のねっとり濃厚な旨味、下にしいたパルミジャーノ・レッジャーノを固めたタルト生地の塩気と香ばしさの効いた食感と、計算しつくされた構成に脱帽です。
オススメメニュー3

冷菜の盛り合わせ 2,640円(税込)※写真は2人前
酒井シェフの最初の修行先である「ヴィノ・ヒラタ」の定番前菜を再現しています。仕入れ状況に合わせて盛り合わせた種類豊富な魚介の刺身を、それぞれ異なるソースで味付け。取材時はアワビや太刀魚など6種類で、真鯛はパセリをペースト状にしたサルサヴェルデ、あじは細かくたたいてトマトとバジルを和えたタルタルに。ホッキ貝は細かく刻んだトマトとオリーブ、アワビは肝のソースとトマト・パセリ、太刀魚は皮目を炙りビネガーを含ませたおろし玉ネギ、表面を炙ったアオリイカはシンプルに海塩とオリーブオイルで和えています。
お店紹介

「本場イタリアでも少なくなっている綿棒で打った手打ちパスタで、イタリアの豊かな食文化を伝えていきたい」と酒井辰也シェフ
ミシュランガイドで1つ星を獲得するイタリア料理店「ピアット・スズキ」の姉妹店として2009年にオープンしました。正統派レストラン・スタイルの本店に対して、「ケ・パッキア」はカジュアルなトラットリア・スタイルを採用。お店は連日、イタリアの食堂さながらの陽気で賑やかな活気に満ちています。
メニューを固定せず、黒板メニューは毎日書き換えられ、常連客も来るたびに新しい料理との出会いがあります。また日本ではあまり知られていない郷土料理を積極的に採り入れており、そうした本場イタリアの風土を感じさせてくれると、マニアックなイタリア料理ファンも足繁く通うそうです。
食事を彩るイタリアワインは常時100種以上をラインアップ。赤・白ともイタリア全域のワインをほぼ網羅しています。ボトルだけでなく、グラスで提供できるワインの種類も7~8種類1000円〜と幅広く用意しています。
同店で2020年からシェフを務めている酒井辰也さんは、1985年茨城県生まれ。根っからの食いしん坊が高じて高校卒業後に地元のイタリア料理店に就職。20歳で上京し、麻布十番の「ヴィノ・ヒラタ」で10年間研鑽を積んだ後、31歳でイタリアへ。3年3ヶ月の滞在中は、南はシチリア州から北はピエモンテ州まで、イタリア各地のレストランで郷土料理を学びました。最後の1年3ヶ月はボローニャの名店「ダ・アメリーゴ」で過ごし、麺棒で生地を伸ばしていく手打ちパスタの技術を習得しました。そうしたイタリアの地域に根ざした料理への造詣の深さで、多くのイタリア料理ファンを魅了しています。
基本情報

店名 | トラットリア・ケ・パッキア |
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所在地 | 東京都港区麻布十番2-5-1 マニヴィアビル4階 |
電話番号 | 03-6438-1185 |
営業時間 | 17:00〜深夜1:00 |
定休日 | 日曜日、祝日の月曜日 |
席数 | 34席(テーブル30席、カウンター4席) |
主な客層 | 地元の常連客、40〜50代男女、イタリアの郷土料理ファンや同業者など |
予算の目安 | 9,000円~ |
開業 | 2009年4月27日 |
※掲載内容は取材時点での情報であり、記事内容、連絡先、営業時間などが変更になる場合があります。