(東京都/千代田区)
インド・パキスタン地域の郷土料理で、近年(2025年時点)注目が高まっているのが「ビリヤニ」です。ビリヤニは多種多様なスパイスで調味した肉と米を合わせて炊いた、インド地域特有の炊き込みご飯。これまでカレーのような関心を集めることはありませんでしたが、2020年以降本場さながらの味を提供するビリヤニ専門店が次々と登場。スパイス料理マニアを中心に脚光を浴びるようになっています。石川・野々市に本店を構える「ジョニーのビリヤニ」もその一つで、2023年と24年には2年連続で食べログ百名店に選出されました。今回は、2号店である東京・神田店を切り盛りする冨田幹也店長に、同店オリジナルメニューの「マトンキーマのビリヤニ」についてお話を伺いました。
クローズアップメニュー

本日のビリヤニ マトンキーマ 350g 1,500円(税込)
白、黄、茶の不規則な模様を描くバスマティライスとマサラで炒めたマトンの挽き肉(以後「マトンキーマ」)の色合いが特徴で、香ばしさの中に爽やかさを感じさせるスパイスの香りが食欲をそそります。マトンキーマの挽き肉は、マトンの挽き肉を玉ネギや10種類以上のスパイスとともに炒め、黒コショウとフレッシュな青トウガラシを主体にしたじんわりとやさしめな辛さで、口に残る爽やかな余韻が特徴。インド産のバスマティライスは、パラパラとした軽やかな炊き上がりで、心地良い食感と風味がクセになります。
一度の仕込み量は約15kg、30〜35食分を大鍋で炊き上げる本場の調理スタイルを踏襲。これもビリヤニの味を決めるポイントで、本店とは火力や鍋の形状が異なるために冨田店長はクオリティの実現に工夫を凝らしています。
副菜には、本場インドやパキスタンでカレーの付け合わせとして親しまれている「ライタ」に加え、パクチーの葉、紫玉ネギ、レモンが添えられます。まろやかにも爽やかにも味変を楽しめます。
技のポイント1






10種類以上のスパイスが、爽やかで奥深い味を表現します
主材料となるバスマティライスは4.5kg、マトンの挽き肉は6kg、粗みじん切りの玉ネギは6個分を使います。
油に香りを移すスタータースパイスは、クミン、カルダモン、シナモン、クローブ、ブラックペッパー。すべてホールの状態で使用します。
マトンキーマ用のマサラは、コリアンダー、クミン、カルダモン、シナモン、ブラックペッパー、フェンネル、クローブ、スターアニス、ブラックカルダモン、メース、ターメリック。他に小口切りした青唐辛子、すりおろしたショウガとニンニク、ヨーグルトが加わります。
バスマティライスを茹でるときに使うスパイスは、カルダモン、シナモン、シャヒジーラ(ロイヤルクミン)をホールのまま使います。 付け合わせの「ライタ」は細かく刻んだキュウリと玉ネギ、おろしニンニク、塩をヨーグルトで和えています。
技のポイント2





玉ネギを深い飴色になるまでじっくりと炒めます
鍋底に2cmほど満たしたサラダ油にスタータースパイスを入れて強火にかけます。スパイスの香りが立ってきたところでみじん切りした玉ネギを投入。玉ネギ全体に油をまとわせるように、ときおり攪拌しながら炒めます。実際には揚げる感覚に近く、玉ネギが深い飴色に変わるまで20分ほど炒め続けます。 その後、弱火にしておろしショウガとニンニクを加え、ニンニクの香りが出てきたら、キーマ用のマサラを加えます。スパイスの香りが広がってきたらヨーグルトを加えて木べらで攪拌しながら馴染ませます。
技のポイント3




マトン挽き肉を炒めながら、しっかりと水分を飛ばします
マトンの挽き肉全量をマサラの入った鍋に投入し、再び強火にして炒めていきます。
木べらを使って肉をほぐしながら炒めていきますが、肉の粒を潰さないようにざっくりと混ぜるのがコツです。肉全体に火を通しながらも、あえて多少の塊が残る程度の“いい加減さ”を残すことがポイントです。
炒めているうちに、肉から脂や水分が出てきますが、ここでしっかりと水分を飛ばしておくことが非常に重要です。「キーマに水分は不要」と冨田シェフは語り、この工程がバスマティライスの仕上がり具合を決定づける大切なポイントだそうです。
最後に刻んだ青唐辛子を加え、全体に馴染ませたらいったん火を止めます。
技のポイント4


何度も歯応えを確かめながらバスマティライスを茹で上げます
軽くすすいだバスマティライスは、たっぷりの熱湯で約1時間ほど浸水させます。これは、茹でる工程で米を投入した後すぐに沸騰させるための準備です。再沸騰までに時間がかかってしまうと、表面だけ加熱される時間が長くなり、仕上がりの食感にムラが生じるためです。
寸胴鍋には7分目程度まで水を張り、スパイスを加えて強火でしっかりと沸騰させます。湯がグツグツと沸き立ったところで、浸水させていたバスマティライスの水気をよく切り、一気に投入します。 フタをして強火まま鍋の対流を活かして米を踊らせるように茹でます。ゆで時間は3分30秒を基準にしていますが、数十秒ごとに米を取り出して食感を確認しながらベストな茹で上がりを見極めます。この茹で加減の判断が、仕上がり全体の完成度を決定づけます。
技のポイント5


料理人の五感を駆使して、ベストな炊き加減を見極めます
茹で上がったバスマティライスを、ザルでしっかりと湯切りしながら、マトンキーマが入った鍋に移していきます。マトンキーマと混ぜることをせずに、上に積み上げるように移すのがポイントです。
ライスをすべて移し終えたら、フタをして炊飯に入ります。火加減は、強火で6分、弱火で24分、さらに火を止めて10分間蒸らします。
ただし、これらの時間はあくまでも目安にすぎません。判断の基準となるのは料理人自身の感覚。冨田シェフは、炊飯中にフタから漏れ出る湯気の香りや勢い、フタ表面の温度を何度も確認しながら火加減を調整しています。香りが強く立ち上がってきたら、弱火に切り替えるタイミングと捉えます。蒸らしに入るかどうかも、湯気の様子やフタの温度を見極めて判断します。
こうした細やかな調整によって炊き上がったバスマティライスは、細長い粒が一粒一粒立ち上がり、ふっくらと自立した美しい状態に仕上がります。
盛り付けの際は、下層にあるマトンキーマを掘り起こすようにして取り出し、バスマティライスと混ぜすぎないように注意します。ライスとマトンキーマの量や色付きのバランスに気を配りながら盛り付けます。
仕上げに、ライタ、紫玉ネギ、レモン、そしてフレッシュなパクチーを添えれば完成です。
オススメメニュー

カルダモンラッシー 400円(税込)
ドリンクの一番人気アイテムです。ヨーグルト、牛乳、砂糖、レモン果汁を使った、日本人に馴染みのある甘い味わいのラッシーですが、微粉末にしたカルダモンの爽やかな香りが飲み心地を高めています。カルダモン・パウダーは、ホールのカルダモンをミルで粉末化。店内で適宜挽くことで少量でも鮮烈な香りが楽しめます。
お店紹介

「スパイス料理は配合の妙で味が変わる自由度の高さが魅力」と冨田幹也店長
ビリヤニ愛好家の間では〝日本三大ビリヤニ〟の一つとも称されてる「ジョニーのビリヤニ」(他の2店は、東京・小川町の「ビリヤニ大澤」、京都の「ビリヤニ専門店インディアゲート」)。
創業者のジョニー氏は日本人で、本場インドを旅行した際にビリヤニの味に衝撃を受け、何度も現地を訪れて独学でビリヤニ作りを習得。2019年に石川・金沢に移住したのをきっかけに北陸初のビリヤニ専門店「ジョニーのビリヤニ」を開業しました。
20年のコロナ禍では冷凍ビリヤニのECショップを立ち上げ、年間1万食を売り上げるほどの大ヒットに。また全国の百貨店などでの催事出店にも力を入れるなど、店舗営業と並行してビリヤニの認知度向上に尽力しています。
21年9月には野々市市のイオンタウン敷地内に店舗を移転し、2024年6月には2号店となる東京・神田店をオープンしました。
神田店は、JR神田駅から徒歩2分の、サラリーマン向けの飲食店が並ぶ西口商店街から一歩入った裏路地に立地。全5席の小さな店舗で、1メニュー売り切れ次第終了という営業スタイルをとっています。カレー・スパイス料理のマニアや近隣会社員が訪れて、連日閉店時間前には終売する人気ぶりです。
ビリヤニメニューは、「チキン」「マトン」といった定番に加え、生クリームをたっぷり使った「マライティッカ」や、パキスタン・ラホール地方の「ラホールマトン」など、地域色豊かな郷土料理を再現したメニューも展開しています。いずれのメニューもスパイスの配合を変えて、素材の風味を最大限に引き出す設計がなされています。神田店を一人で切り盛りする冨田幹也さんは大阪出身の30歳です。辻調理師学校を卒業後、ホテルのフランス料理部門に就職。その頃からカレーに興味を持ち、数々のカレー専門店を食べ歩くように。カレー専門店を含めさまざまな飲食店で料理人として働きながら、数多の店を食べ歩く中で、東京のビリヤニ大澤のビリヤニを食べビリヤニに興味を持つ。京都のビリヤニ専門店インディアゲートとジョニーのビリヤニのコラボイベントでジョニーのビリヤニを初めて食べその魅力を実感。本格的なビリヤニ作りの技術を習得したいと考え、24年1月に「ジョニーのビリヤニ」に入店しました。日々、ビリヤニの魅力をさらに多くの方々に伝えられるお店作りを目指して腕を磨いています。
基本情報

店名 | ジョニーのビリヤニ 神田店 |
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所在地 | 東京都千代田区内神田3-8-1 1階 |
問い合わせ | なし |
営業時間 | 11:00〜15:00(L.O.14:30) ※売り切れ次第終了 |
定休日 | 不定休 |
席数 | 5席 |
主な客層 | 近隣会社員、カレー、エスニック料理好きな目的客 |
予算の目安 | 1,500円〜2,000円 |
開業 | 2024年6月21日 |
ホームページ | https://www.j-biryani.com/ |
SNS | https://www.instagram.com/kanda.johnnybiryani/ https://x.com/kandajohnnyB |
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