(東京/台東区)
伝統の味を気楽に、リーズナブルに提供
個性豊かなサイドメニューも充実の天ぷら酒処
兄弟8人全員が鰻屋という一家のなかで、自身も神田で鰻屋を営んでいた初代が心機一転、御徒町に天ぷら主体の「天正」を開業したのは1955年のこと。当初から新鮮さを重視して冷凍素材はほとんど使わず、2代目からは穴子を主役にしたメニュー展開を行ってきた。毎日市場に出向き、自らの目で生きた穴子を1匹1匹選ぶ習慣は2代目がつくった。
そして現在、妻で2代目の実娘である綾子さんとともにお店を切り盛りしている3代目、渡辺典人さんもこの姿勢を継承している。「天ぷらにして丼に乗せたときに見栄えの良いサイズで、目がイキイキしているものを50~60匹仕入れるのが日課です」と渡辺さん。基本的には「身がやわらかくておいしい」という江戸前穴子、すなわち東京湾産の穴子を使用。キスなども江戸前、野菜類は国産を基本としている。
天丼のタレは初代から受け継ぎ、継ぎ足し継ぎ足ししてきたものだ。醤油やみりんなどの材料も先代と同じ銘柄を用い、変わらぬ味を維持している。だしの原料は「天正」と同じ商店街にある専門店から仕入れる鰹節、甘味はザラメ。「前日に残ったタレに、新しくつくったタレを足していきます。こうすることで素材や揚げ油のうま味が折り重なり、味に深みが出るのです」と、にわかにはつくり出せない複雑な風味の魅力を渡辺さんが語る。
継ぎ足しを用いるのは揚げ油も同様だ。「黄色味がかった独特の衣の色、風味も、前の油が残っていてこそ出せるもの」と綾子さん。江戸前にしては珍しくごま油を使わないこともあり、ボリュームの割にさっぱりとした揚がり具合が特徴となっている。揚げたての天ぷらはタレをくぐらせるのではなく、片面だけつけて素早くご飯に乗せる。カリッと揚げた衣の食感をこうした工夫でできる限りキープするのも、おいしく食べてもらうコツだという。
穴子の丼つゆづけ 550円
「天正に来たならまず1本!」がキャッチコピー。天丼で用いるものより一回り大きな穴子をからりと揚げ、天丼のタレをくぐらせた。山椒をピリリと効かせて食べるのが特におすすめ。
穴子の胆 450円
穴子1匹から1つずつしかとれない胆を集め、醤油と酒で佃煮風に仕上げた珍味。1鉢に20匹分ほどが盛られている。独特の食感と風味が天丼のおともに、またアルコールのおつまみにもぴったり。臭みや苦みはほとんどなく食べやすいが、かみしめていると肝独特の風味が口中に広がる。
いかのぽんぽん焼き 550円
天ぷら用のイカを仕込んだ際に残るゲソとワタを無駄なく使おうと編み出した一品。トッピングした揚げ玉のサクサク感、ネギのシャキシャキ感が楽しく、コクのあるタレはご飯にかけてもまたおいしい。「穴子の白焼き」「自家製ベーコン」など数あるサイドメニューのなかでも人気ナンバーワンである。
お店の内装、小物類、ユニフォームなど、「作れるものは何でも自分たちで作ります」という渡辺さん夫妻。2013年春にはロゴ入りポロシャツ、真っ赤なエビのイラストが鮮やかなのれんを新調。
キッチンに戸棚を作ったり、壁全体にすだれを貼ったり、イスの布を張り替えたりといった作業も、時間を見つけては自前で行っている。
こうして常に手をかけているので、築60年になろうという店舗は古さの中にフレッシュさがありとてもきれい。綾子さんの手書きという毛筆のメニューも必見だ。
住所 | 東京都台東区台東3-8-8 |
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電話 | 03-3831-9553 |
営業時間 |
月~金 ランチ 11:00~13:30 ディナー 17:30~22:00 土曜 ランチのみ |
定休日 | 日曜・祝日 |
席数 |
ランチ 21席(テーブル16席、カウンター5席) ディナー 16席(カウンターなし) |
1日の客数 |
ランチ 40人 ディナー 16人前後 |
主な客層 | 近隣の会社員、観光客。夜は40~50代、土曜は家族連れが多い |
予算の目安 |
ランチ 1,000円 ディナー 2,000~5,000円 |
開業 | 1955年 |
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