【おでん】~尾張家~

(東京都/千代田区)

肌寒さを感じる季節になると自然に恋しくなる日本の味、おでん。調理法がシンプルなだけに、ダシの取り方や素材の選び方がその味を大きく左右します。創業87年の老舗おでん店「尾張家」では、終戦以来継ぎ足し続けているダシ汁で、神田や日本橋の専門店から厳選して仕入れるおでん種をじっくり煮込んで提供。食通の舌を満足させ続けています。

クローズアップメニュー
おでん
カウンター席に囲まれるように設置された大きなおでん鍋。ここで炊かれるダシ汁は、戦後継ぎ足しを重ねてきたものだ。毎日残った汁を丁寧に漉しては沸騰させ、あく取りを済ませて保管。そこに翌日、新しいダシを足して調味する繰り返し。昆布、煮干し、鰹節をたっぷりと使って煮出すダシはうま味が強く、特に鰹節の香りが際立つ。調味には白醤油、薄口醤油、みりん、酒を用いており、色も味も比較的薄めに仕上がっている。「継ぎ足しだからこまめな火入れが欠かせません」と語る二代目店主の長江操さんは、こうした作り方、多くの人に愛される味を、創業者である義父の背中を見て覚え、いまに伝えているという。

技のポイント-1

鰹節を効かせる
ダシの素として用いる日高昆布、煮干し、鰹節は毎日築地で仕入れ、たっぷり使って煮出している。昆布と煮干しは前日から水に浸してうま味を引き出し、鰹節は短時間炊いてさっと取り除くのが香りを引き出すポイントだ。

技のポイント-2
調味はおでん鍋で
ダシを炊くのは厨房だが、そのダシに味付けをしておでんを煮るのはカウンター内のおでん鍋。味の染み込み具合などを見ながら、ダシ、白醤油、薄口醤油、みりん、酒を足し、ほど良い味をキープする。

人気のおでん種

  • 豆腐 300円
    明治時代から続く内神田の豆腐店から仕入れる大きな木綿豆腐を半分に切っておでん鍋に入れるだけだが、「崩れたり固くなったりしないように面倒を見るのは意外に大変」と長江さん。国産の良質の大豆とにがりを使って昔ながらの製法で作られるこの豆腐は人気が高く、あらかじめ予約するか真っ先に注文する人が多いため、1日30個が早い時間に売り切れてしまう。奴風に刻みネギ、醤油、七味唐辛子、鰹節を乗せたうえで、練りがらしを添えて提供しているのもユニークだ。
  • キャベツ巻き 300円
    牛と豚が1:1の合い挽き肉にタマネギやナガネギを入れて酒などで軽く味つけし、キャベツでくるんでかんぴょうで結わく。毎日40個手づくりし、午後いっぱいの時間をかけて柔らかく煮込み味を染み込ませる。その日のうちに売り切るので冷凍などは一切しない。挽き肉は、これまた創業100年を超える日本橋の老舗精肉店、日山(築地店)で毎日挽いてもらっている。
  • ふくろ 300円
    いろいろな具材を油揚げに詰めてかんぴょうで結わいたおなじみのおでんだねは中身にお店の個性が表れる。「尾張家」の袋の中に入っているのは鶏肉、シイタケ、しらたき、インゲンなど。細くシャキシャキして歯切れの良いしらたきや、油揚げも豆腐と同じお店から仕入れている。
  • ネギマ 200円
    マグロと長ネギを交互に串に刺し、下茹でしてからダシ汁に投入する。味が染みたら皿に盛り、醤油と七味唐辛子をかけて提供。とても柔らかく口溶けが良いマグロは生でも食べられる上質なトロを使用。贅沢な感じがするが、初代はあくまで庶民の家庭料理として提供していたという。
  • 大根 200円
    新鮮な大根を昆布と煮干しで加えてじっくりと下茹でし、やわらかくなったらさらにおでん鍋の中で煮込む。1日70個、多いときで100個ほども出る。
オススメメニュー
刺身盛り合わせ 一人前2,000円 ※写真は2.5人前で5,000円
長江さんのご主人と三代目である息子さんが毎朝築地に通い、その目で確かめて仕入れるという20種ほどの新鮮な魚介から、10種程度を選んで盛った大人気メニュー。すべて天然もので、「寿司屋のネタよりうまい」という声も少なくない。
  • お店紹介
    女将 長江 操さん

    初代店主の息子であるご主人のもとへ嫁いで以来50年余り、二代目としてカウンターに立ち続けている女将、長江操さんは「尾張家」の顔。長江さんとの会話を楽しみに通う常連客も多く、近隣の大企業の幹部たちも臆せず“ちゃん付け”で呼ぶなど、親しまれている。
    「おなじみのお客さまに頼まれちゃ、イヤとは言えません」と、定刻より少々早く来店する人も快く受け入れたり、ランチタイムに提供している「さしみ定食」(800円)におでんを割安でおまけしたりと、サービス満点。消費税3%時代からまったく値上げを行っていないといった太っ腹ぶりも人気のポイントだ。また、「松茸どびんむし」「あなごの煮こごり」など、おでん以外にも自慢の料理を数々揃えている。
    24席あるカウンターに加え、大小の座敷が4部屋あるが、どの席もかなり先まで予約が入っている。「いらっしゃる前に1本お電話をいただけるとありがたいです」と気っ風のよい口調で話す長江さん。満面の笑顔に汗をにじませながら繁盛店をきりもりしている。
  • 基本情報

    店名 尾張家
    住所 東京都千代田区鍛冶町1-6-4
    電話 03-3251-4320
    営業時間

    昼 11:30~13:00 

    夜 17:00~22:00

    定休日 土・日・祝日
    席数

    カウンター 24席 

    座敷 20名1室 10名2室 6名1室

    主な客層 ビジネスマン中心
    1日の客数 昼 50〜60人 夜 100人前後
    予算の目安 昼 700〜1000円 夜 2000円〜(平均5000円程度)
    開業 1927年
  • 掲載内容は取材時点での情報であり、記事内容、連絡先、営業時間などが変更になる場合があります。