【おでん】~平澤かまぼこ店 王子駅前店~

(東京都/北区)

店先に立ち上る湯気、鼻をくすぐるダシのいい香り。寒くなると、そんな光景に誘われて、つい立ち寄りたくなるおでん屋。たくさんのおでん種から滲み出たうま味が加わり、お店でなければ生まれないうまさを生み出す。創業52年、下町のかまぼこ屋が15年前に出店した王子駅前店のおでんは、もちろん自家製の練り製品をたっぷり使用。製造元直営だけに、他店にはないオリジナルの種も多い。

クローズアップメニュー
おでん
もともとかまぼこメーカーとして創業した平澤蒲鉾店。本店では毎日築地から魚を仕入れ、かまぼこをはじめとする練り製品を作っている。「かまぼこの主な原料は、スケソウダラを中心に、他の白身魚も使います。季節によって使う魚が変わるし、同じ魚でもその日によって味が違う。けれど、製品は常に同じ味でなくてはならないから、そこを補うのが、こだわりの調味料と長年のカン。砂糖を0.001%入れただけで、味はもちろん、歯ごたえなども変わるんです。だから、“同じかまぼこ”を作ったことは一度もありません」と語るのは、平澤蒲鉾店代表の平澤慶彦さんだ。
焼きちくわやしらたき、がんもどきなど、一部はご近所の馴染みのお店のものを使用。この界隈は古くから水が良く、おいしい手作り豆腐の店が多い。それ以外の練り製品は、もちろんすべて自社製品。大根やロールキャベツなどの野菜類も、工場で下ごしらえや加工をして、店頭で煮込んでいる。「持ち帰りのお客さんも多いので、消費税が上がったからといって、端数が出るのは計算しにくくて不親切。だから値段は据え置きです。製造元だからできることでしょうね」(平澤さん)。味も値段も、実に庶民的なのだ。
  • 自家製おでん種の特長 1
    手作りならではのふんわり食感 はんぺん 100円(税込)
    2種類のサメのすり身肉に対し、10%の大和芋、卵白を混ぜ、2時間かけて撹拌。手作業で型取りしてから水に取り、その後15分ほど茹でる。サメ特有の臭みを取るために丁寧に水洗いしたり、ふんわり仕上げるために薪の柔らかな火加減で茹でるなど、シンプルだがさまざまな工夫が生きている。ずっしり重い静岡の黒はんぺんに対し、水に浮くほど軽いため「浮きはんぺん」とも呼ばれる。東京のおでんを代表するおでん種であり、東京と千葉でしか作られていない。
  • 自家製おでん種の特長 2
    独自に考案したミートボール状 魚すじ 200円(税込)
    はんぺんに並んで、東京のおでんを代表する種。白身の魚のすり身に、かまぼこやはんぺん作りで残ったすじ(軟骨部分など)を混ぜ、整形して茹でたもの。棒状のものをカットしてからおでんのだしで煮込むのが一般的だが、こちらでは食べやすさを考えて、ボール状にして串刺しに。見た目に可愛らしく、食べると肉のようにみっちりとした弾力があり、「魚のハンバーグ」として人気がある。
  • だしのポイント
    季節によって塩気を調整
    工場で作っただしを、店頭で薄めて鍋に継ぎ足す。だしのベースは煮干しと、昔から変わらないこだわりの調味料で味を調えている。そこに、約30種類ものおでんダネから滲み出るうま味が加わって、複雑な味わいのつゆになる。味付けは塩と醤油。汗をかく季節は、塩気を強めにするが、「塩気だけは引き算ができない。塩辛くならないよう、微調整には気を配っています」(平澤さん)

人気のおでん種

  • 大根 100円(税込)
    丸ごと仕入れた大根を、工場で皮むきし、丁寧に面取りしてから下茹で。さらにいったんだしで煮込んでから、店頭でもう一度煮込む。3度煮でくたくたになるまで味が染みた大根は、なんといっても人気ナンバーワン。東日本の人は少し硬め、西の人はとろとろの柔らかめを好むとのことで、好みを伝えればほどよいかげんのものを選んでくれる。
  • ちくわぶ 100円(税込)
    関東独特のおでん種のひとつ、ちくわぶ。これは自家製ではないが、独自にオーダーして作ってもらっている。水と塩でこねた小麦粉をしばらく寝かせ、たたんでは延ばし、たたんでは延ばしを繰り返す。それを芯棒に巻き付け、上から巻きすで巻いて蒸しあげるため、歯車のような独特の形状に。パイ生地のように薄い層になっているので、そのすき間にじっくりつゆが染み込み、独特のもっちりとした食感が生まれる。
  • ピリ辛さつま揚げ 250円(税込)
    さつま揚げの中に、刻んだ魚肉ウインナー、ニラ、カレー粉、鷹の爪を混ぜたもので、平澤かまぼこ店のオリジナル種のひとつ。つゆにカレーの風味が溶けて、他の種に移らないよう、練り製品用に開発した特殊なカレー粉を使っている。名前はピリ辛だが、実際はかなりパンチの効いた辛さ。辛いのが苦手な人には、カレーボール(カレー粉だけを混ぜたさつま揚げ/150円)もある。
オススメメニュー
板わさ 250円
店名にもなっているかまぼこは、おでんと並ぶ看板メニューで、イトヨリダイを昔ながらの製法で手作りしている。ごつごつとした棒のような形が独特。さらに、しゃっきりとした歯触りと、濃いうま味に驚かされる。味付けもしっかりとしているので、しょう油をつけず、そのまま食べるのがおすすめ。あとはお好みで、添えられた本わさびをつけて。酒の肴には最高の一品。
  • お店紹介
    平澤蒲鉾店代表の平澤慶彦さん(左)と、王子駅前店スタッフのラマ・プスカルさん

    王子駅を出て、親水公園に抜ける小さなガードをくぐると、だしと醤油のいい香り。本店は昭和37年創業と聞けば、立派な老舗と思いきや、「小田原や日本橋に行けば、創業200年なんてお店がザラですから、52年なんてまだまだ新参者です」と笑うのは、代表の平澤慶彦さん。今も基本的には本店で、かまぼこ作りを担当。「世界中の人においしい魚を食べて欲しい」という研究熱心な情熱家。白身のすり身で作るさつま揚げには、さらに味を出すためにカジキマグロをプラス。ホッケとマグロにイワシを足して作るつみれには、匂い消しも兼ねてネギとにんじんを入れるなど、平澤さんのアイデアから生まれたオリジナルの種も多い。
    創業当時は製造と卸のみだったが、自社製品を使った立ち飲みの居酒屋として、1999年に王子駅前店をオープン。飛鳥山公園や親水公園の散策ついでに立ち寄る人、軽く腹ごしらえしてから駅を目指す人、持ち帰りに立ち寄るご近所のお年寄りなど、訪れる人は実にさまざま。立ち飲みの気軽さも手伝って、ときには昼間から、店からはみ出すほどの人で賑わう、下町の名物おでん屋さんだ。

    ※お店での価格と同じ値段で持ち帰りもできる。また、本店(東京都北区神谷2-28-15、☎03-3901-9421)では小売りもしている(地方発送可)。

  • 基本情報

    店名 平澤かまぼこ
    住所 東京都北区岸町1-1-10 NUビル1階
    電話 03-5924-3773
    営業時間

    10:00~22:00(L.O.)

    定休日 祝日(8月のみ日曜も定休)
    席数

    10人程度の立ち飲みカウンターのみだが、詰めあって20人以上入ったこともある。奥に4~5人入れる個室(ただし立ち飲み)も。

    予算の目安 板わさ、はんぺん、大根、日本酒(1合)で750円。
    開業 1999年(本店は1962年)
  • 掲載内容は取材時点での情報であり、記事内容、連絡先、営業時間などが変更になる場合があります。