(東京都/港区)
何かと宴会も多いこの季節に、何よりのごちそうといえば、鍋。湯気の立つ鍋を、大勢で囲む楽しさは格別です。最近は、水炊き、キムチ味、しょうゆに味噌に塩ベースと、さまざまな味のバリエーションが登場していますが、今回ご紹介するのは、浜松町にほど近く、毎日ビジネスマンでにぎわう居酒屋「たかなし」の人気鍋。かつおだしに自家製塩麹を加えたあっさり味のスープに、具材のうま味が溶け出し、最後の一滴まで飲み干したくなるような、深い滋味が感じられます。
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クローズアップメニュー
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鰯つみれと鶏つくね鍋 850円(2~3人前) 3,980円(税込)
近年、大ブームとなった塩麹だが、ここ「たかなし」ではそれ以前から自家製塩麹を使用している。たまたまお客さまとして来店していた、秋田の銘酒『天寿』の蔵元と意気投合、酒用の麹を分けていただき、作るようになった。そしてこの冬登場したのが、その塩麹を使った鍋。他に、ほんのり甘みをきかせたしょうゆ味の鍋もあるが、塩味のあっさりした味わいで、またたくうちに人気メニューになった。
スープは、ベースのかつおだしに少量の塩麹をプラス。具材と一緒に煮込むうちに、麹独特の匂いは飛んでしまうので、麹が苦手な人も気にならない。〆は雑炊が一般的だが、なかには別メニューの手延べそうめんをリクエストする常連さんもいる。
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技のポイント-1
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味の決め手は自家製塩麹
塩麹はしょっぱいので、様子を見ながら少量を加える。煮詰まって味が濃くなったら、追いだしで薄める。追いだしは、スープの味を邪魔しないよう、昆布だしを使用。「ここでは塩麹をスープに加えていますが、水炊きなどでは、塩麹をまぶした鶏肉を入れてもいいでしょう。味付けになるだけでなく、肉が柔らかくなります」と高梨さん。塩麹は、雑菌が入らないよう保管に気を付ければ、半年ほど保存できる。
技のポイント-2
つくねとつみれのうま味を引き出す
最初に入れるのは、うま味のある鰯つみれと鶏つくね。どちらも酒、信州味噌、薄口しょうゆのほか、鰯つみれには全卵と長ねぎとショウガのみじん切り、鶏つくねには玉ねぎのみじん切りと玉素(卵黄とサラダ油を撹拌したもの)を混ぜている。味噌が鰯や鶏肉のクセを抑え、少量の油によって鶏肉のパサつきが抑えられる。また、長ねぎや玉ねぎのみじん切りは、肉と混ぜる前に片栗粉をまぶしておくのも、口当たりをよくするポイント。
技のポイント-3
野菜は味の入りにくいものから
鍋に入れる順番は、茹でたジャガイモ、白菜など、しっかり煮込んで味を染み込ませた方が美味しいものから。次に舞茸、エリンギ、厚揚げなど味のでるもの。長ねぎ、水菜など、すぐに煮えるものは最後に入れる。白菜の芯の部分を、火が通りやすいよう短冊に切っているのも、うれしい心使い。
技のポイント-4
ゆずや胡椒で味の変化を楽しむ
添えられたゆずは、食べる直前に鍋に入れてもいいし、好みで取り分けてから椀に散らしても。また、食べ進んでちょっと味に飽きたかなと思ったら、胡椒や柚子胡椒などを加えると、風味が変わって、新鮮な感覚で食べ続けられる。
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オススメメニュー -1
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ごぼうかりかり揚げ 550円(税込)
スライスしたごぼうに打ち粉をし、コーンスターチを加えた天ぷら粉にくぐらせる。衣は天ぷら粉でも、イメージとしては唐揚げなので、余分な衣は指で弾き飛ばしてできるだけ薄くするのが、カラッと揚げるコツ。揚げたてに塩を添えて。ごぼうの香ばしさが美味しい一品だ。
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オススメメニュー -2
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牡蛎のオイル漬け 600円(税込)
湯にくぐらせて霜降りにした牡蛎を、だし、しょう油、みりん、ローリエ、鷹の爪、ショウガで炊く。ぷっくり膨らんだ牡蛎を取り出し、汁を煮詰めたところに再び入れ、沸騰したら火を止める。冷めたら器に牡蛎を入れ、キャノーラ油を注ぎ、密封して40分蒸し、再び冷ます……と、実に手の込んだ一品。牡蛎の身はふっくらと柔らか、それでいて芯までしっかり味が染み込んでいる。高梨さんが20代の頃の修行先で、親方に教えられたレシピを、独自にアレンジしたもの。
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オススメメニュー -3
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カマンベール西京漬 690円(税込)
ひと口大に切ったカマンベールチーズを、酒とみりんで、魚の西京漬けよりもゆるいくらいに伸ばした西京味噌にまぶし、5日~一週間寝かせたもの。食べるときは味噌ごといただく。洋食材のカマンベールが、味噌の甘みと塩分をまとい、見事に日本酒や焼酎に合う肴に変身。もちろん辛口の白ワインとの相性も良さそうだ。
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お店紹介
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店主 高梨栄一さん
お店に入ってお品書きを開くと、まずそのメニューの多さに驚く。日本各地の銘酒の数々と、さらに焼酎も常時50~60種。それに合わせる料理も、鍋をはじめ、酒の肴にぴったりの珍味から、がっちり〆の食事まで多種多彩。他にその日のオススメメニューもあり、何を頼むか迷いそう。
「20年ほど前に勤めていた居酒屋で、焼酎を置き始めたのをきっかけに、焼酎の研究を始めました。おいしい焼酎を買い貯めて、家に大量に保管。実際にそれをお店で出したこともあります」と、店主の高梨さん。しかし、焼酎ブームの陰で、多くの日本酒の蔵元が苦しんでいるのを見て、「いつか持つ自分の店では、日本酒を売ろうと決めていました」。その言葉通り、すべて自ら味見して選んでいるという日本酒は、酒好きにはたまらないラインナップ。「懐石店のようなコース中心の店と違い、居酒屋は単品が基本。その日の仕入れを見て、コストも考えながら何を作るか考えたり、人気のお酒をどうやって仕入れるか。そういう工夫が楽しいんです」とも語る。
取材中、カメラマンと写真談義で盛り上がった。聞けば、3年ほど前から写真に凝りはじめ、カメラや構図についても独学で研究してきたそうで、その知識と作品のクオリティは、プロも驚くほど。「このカメラに、このレンズを合わせたらどうなるんだろうとか、工夫しながら研究するのが楽しい。この素材をどう料理しようとか、どんなお酒に合うか考えるのと、似ているかもしれません」と笑う。
最後に今後の目標を訪ねると、「“10年たったら店”という言葉がありますが、うちも今年でやっと10年。ここからが本当のスタートだと思っています」。そんな真面目さから生まれる、おいしい料理とお酒を味わいたくて、仕事帰りの近隣のビジネスパーソンはもちろん、羽田空港や新幹線へのアクセスも良いことから、「東京出張の最後に、おいしいお酒と料理を」と立ち寄る人も多いというのもうなずける。
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基本情報
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店名 |
手仕ごと旬鮮台所 たかなし |
住所 |
東京都港区芝大門2-4-11 |
電話 |
03-3438-3323 |
営業時間 |
昼11:30~14:00(L.O.13:30)
夜17:00~23:30(L.O.22:30)
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定休日 |
日曜・祝日、月2回土曜日
(電話で確認を)
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席数 |
1Fカウンター18席
B1テーブル 25~26席
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主な客層 |
サラリーマン中心、女性客も多い |
1日の客数 |
1ランチタイムは100~120人、
夜は平均20~30人。ただし、週末の夜などは予約だけで1F、B1ともに満席になることも。 |
予算の目安 |
ランチの定食はすべて950円。
夜は4,000~7,000円。 |
開業 |
2005年6月13日 |
URL |
http://www.taka-nashi.com/ |
※鍋は、2月いっぱいくらいまで。その日の仕入れ状況によって、メニューの内容が変わることがあります。
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※掲載内容は取材時点での情報であり、記事内容、連絡先、営業時間などが変更になる場合があります。