【親子丼】鳥つね 自然洞

(東京都/千代田区)

「鳥つね 自然洞」は、大正時代の創業から90年あまりの鶏料理の老舗「鳥つね」の支店として1972年に開業(当初は「鳥つね」の支店、1992年より「鳥つね 自然洞」)。20代で店を任されて約30年、店主の佐々木久哉氏は、老舗の味を継承しながらも、素材選びから仕込み、調理法、サービスに至るまで自分流を貫き、独自の鶏料理へと進化させた。数十年にわたる探求のなかで体得した職人技により生み出された佐々木氏流の親子丼の味に迫る。
クローズアップメニュー
特上親子丼 1,600円(税込) ※ランチ限定20食。
鶏肉は、生産者自らが加工して出荷している日齢160〜180日の比内地鶏と名古屋コーチンのメスを使用。卵を持ち始めたこの頃のメスが、脂がのり出して一番おいしい。ト殺後、翌日に冷蔵で受け取れるクール便が誕生した28年前より、この2種類の地鶏を使用している。
毎日、店に到着したト体(丸鶏)の内臓を処理し、丁寧に各部位をさばく。親子丼に使用するのは、胸肉ともも肉70g。
親子鍋に、しょうゆ、みりん、水と微量の砂糖で作った割り下を50cc、2種類2部位の鶏肉を入れ、蓋をして煮る。途中、鶏肉の上下を返し、火が通ったら、切り三つ葉を香りづけに入れる。
兵庫県の「日本一こだわり卵」L玉3個をさっと溶いて、一気に回し入れて蓋をする。50秒ほど火を通し、どんぶりに盛る。
米は、福島県の喜多方市(旧熱塩加納村)の1軒の農家が生産する無農薬のコシヒカリ。しっかり噛みごたえがあって、うま味が濃い米が親子丼に合う。濃厚な卵と鶏肉のだしがきいた少し濃い目の割り下とご飯が口の中で一体となり、ちょうど良い味になる。甘さ控えめで、さっぱりといただける。
技のポイント1
 
ト体(丸鶏)の中抜き処理はじめ、下ごしらえに手間をかける
血抜きと脱毛のみを行ったト体(丸鶏)が、ト殺した翌日に店に到着。
店主の佐々木氏は、食鳥処理の資格を持っているため、毎日、店内で、中抜き処理を自ら行っている。その後、各部位にさばき、スジを取り除く等おいしく提供するための丁寧な下ごしらえがなされる。
技のポイント2

 
探求の末に出会った、こだわりの調味料で作る割り下
割り下の調味料の割合は、醤油1:みりん1:水1と耳かき程度の砂糖。
醤油は、木樽を使用した3年ものの埼玉県の再仕込み醤油。醤油自体のうま味が濃いため少量でも十分なうま味がでる。みりんは、岐阜県の三年熟成みりん。穏やかな甘さで、割り下のほんのりした甘みはみりんによる。鶏肉、卵はじめうま味の強い素材を選んでいるため、調味料もうま味の濃いものを選ぶことで、合わさったときのバランスがよい。
技のポイント3
 

の味をダイレクトに味わうために、卵は溶かずに切る

卵は、味が濃厚な兵庫県の「日本一こだわり卵」L玉3個を使用。卵は卵黄に味がある。卵を味わうためには、白身で卵黄が薄まらないように卵をよく溶かないこと。溶き方は、白身と卵黄をさっと切る程度。卵本来の味を味わう秘訣である。
技のポイント4
 
考えられた味の組み立て
ご飯に、出来た具材を盛ると、まず、ご飯に具材がのり、割り下がご飯に染み込む。一番上の具材を口に入れると、卵の味を強く感じる。徐々に、具材と一緒にご飯を口に入れると、割り下が染みたご飯が具材と一緒になり、親子丼として一体となった味が味わえる。「卵を食べるような親子丼」という佐々木氏の親子丼は、考えられた味の組み立てと、調理の技で成り立っている。
おすすめメニュー1

鳥しんじょ 1,200円(税込み)※夜メニュー
鶏の挽肉と玉葱等のみじん切りを、鍋で練りながら30〜40分混ぜる。塩で味付けをし、冷ます。冷えてクリームコロッケほどの堅さになったら、親指大の俵型に成形し、パン粉をつけて油で揚げる。土佐の天日乾燥した塩でいただくと、風味が一層引き立つ。口に入れると、さくっとした衣の中から、鶏肉の肉汁がジュワっとあふれ出る。おつまみにぴったりの一品。
おすすめメニュー2

鳥スープ炊 一人前6,900円(税込み) ※夜メニュー、写真は2人前
佐々木氏曰く、「一番、地鶏のおいしさが味わえる料理」。前菜、鳥しんじょ、鍋(厚切りの鶏肉、たたき、野菜、雑炊、新香)のコース。
酒蒸しなどの前菜のあと鳥しんじょ、そしてメインの鍋となる。鍋のかなめとなる鶏ガラスープは、鶏ガラを水からアクが白っぽくなるまで一度完全に茹でる。さらに、きれいに掃除した鶏ガラを、再度約3時間茹でる。毎日、新鮮な鶏ガラで作るスープである。
その鶏ガラスープに、比内地鶏と名古屋コーチンの厚めに切った上もも、心臓、レバーを入れ、煮えたら、自家製ポン酢でいただく。自家製ポン酢は、毎年9月に1年分仕込む。9月に出来る徳島県の露地物の酢橘を絞り、小量のレモン汁を入れ半日置く。次に、醤油、みりん、鰹節、昆布を酢橘果汁に入れて再び半日置く。その後、瓶詰めにし、19℃〜20℃以下の場所で1年以上寝かすと、濃厚で香り高い自家製ポン酢が出来上がる。
野菜は、修善寺の椎茸、越谷の千住ねぎ、兵庫の玉葱、喜多方の白菜など、季節によって厳選した野菜を使用。たたきは、小肉の部分を、脂身と肉の部分を適正な割合で混ぜ、長ねぎのみじん切りとともに、たたき包丁でたたく。つなぎには卵を使用。濃厚な鶏肉は、濃いめのポン酢に合う。肉を食べて、少しポン酢が薄まったところで、野菜とたたきをいただく。締めはさらにだしの出た鶏がらスープの雑炊。鶏肉をまるごと味わえる。
  • お店紹介
    店主の佐々木氏(左から2人目)と、20年以上、一緒に店を支えるスタッフの皆さん。

    店主の佐々木氏は、約30年前、店を任されてから数年間は週に一度の休みの度に、地方へ食材を探しに出かけていた。そして、7〜8年の間に“これだ!”という食材や調味料に出会い、現在も使用しているものが多い。
    「気に入ったら、他のものは使えない。毎日、一年を通して使うから、安定して作ってくれる生産者さんは大切」と語る佐々木氏。そこには、生産者たちと長年の信頼関係で結ばれた強い絆がある。
    創作料理はしない。素材を活かすために、シンプルに食べてもらえる料理が、開店当初から徹している料理へのこだわり。「いい素材に出会えたのですから、その素材を活かすだけ」。鳥つね自然洞の料理、もてなしには、佐々木氏の生き方、精神が貫かれている。
  • 基本情報

    店名 鳥つね自然洞
    住所 東京都千代田区外神田5−5−2
    電話 03-5818−3566
    営業時間

    昼 11:30〜13:30 
    夜 17:30〜22:00(L.O.21:00)

    定休日

    日曜・祝日
    (不定休、臨時休業あり)

    席数

    4名テーブル 2席
    カウンター 8席 
    個室 8名2室  12名1室

    主な客層 ビジネスパーソン、観光客。外国人観光客も多い。
    1日の客数 昼 50〜60人 夜 約30人
    予算の目安 昼 1,000〜1,300円 
    夜 10,000円〜 
    開業 1972年(当初は「鳥つね」の支店、1992年より「鳥つね 自然洞」)
  • 掲載内容は取材時点での情報であり、記事内容、連絡先、営業時間などが変更になる場合があります。