【ビーフシチュー】芳味亭

(東京都/中央区)

1933年(昭和8年)創業の老舗洋食店。戦前に建てられた昭和家屋は、戦火を免れた人形町に今も当時のまま建っている。長い年月、ピカピカに磨かれ続けた柱や廊下は、伝統を感じさせる。二階の和室から見える景色も風情がある。オールドオーブル(オードブル:Hors d'oeuvre)、スチュー(シチュー:Stew)というメニュー表記は、創業当時の外国人の発音を聞こえたままに書き表したもの。いたる処に古き良き時代を感じさせる芳味亭。大正期、西洋料理を修行した初代・近藤茂晴氏の看板メニュー、「ビーフスチュー」に迫る。
クローズアップメニュー
ビーフスチュー 2,500円(税込)
創業時の味を伝えるドミグラスソースは、約1カ月をかけて作る。鶏ガラ、牛すじをラードで炒めた後、オーブンで約2時間かけて焼く。次に、ざっくり切ったタマネギ、ニンジン、セロリを、ラードで炒める。寸胴鍋に、焼いた鶏ガラ、牛すじ、炒めた野菜、ワイン(赤、白)、水を入れ、じっくり2週間かけて煮込み、2週間経ったところで漉す。ルーは、小麦粉をラードで1時間かけて炒めて作る。2週間煮込んで濾したスープに、ルーを加えてさらに煮込み続ける。2週間経ったところで、再度濾し、香辛料等で味を整えて、ドミグラスソースが出来上がる。
ビーフスチューのビーフは、細長くカットした牛バラ肉を、ラードをひいたフライパンで表面にこんがりと焼き色をつける。
鍋に、牛バラ肉、水、赤ワイン、トマトをベースにしたスープを入れて一度強火で煮立たせた後、弱火にし、じっくりコトコトと約3時間、肉が柔らかくなるまで煮込む。
皿に、柔らかくなった牛バラ肉をカットして盛り、温めたドミグラスソースをかける。ベーコンとブイヨンで煮たセロリ、トマト風味のパスタ、ラードで炒めたきぬさやを添えて完成。牛肉は柔らかく、肉のうま味がしっかりしており、たっぷり野菜が溶け込んだドミグラスソースは、濃厚ではあるが後味がさっぱりしている。
技のポイント1
 
鶏ガラ、牛すじ、野菜を1日4時間×2週間かけて煮込む
ドミグラスソースは、まず、鶏ガラ、牛すじ、野菜を煮込む。1日4時間ずつ、2週間毎日、火にかける。2週間後には、鶏ガラの骨も溶けるほどである。また、毎日、加熱→冷却を繰り返すことでうま味も増す。
技のポイント2

 

ルーと合わせて、さらに1日4時間×2週間煮込む

2週間煮込んだスープに、ルーを入れ、さらに1日4時間、2週間煮込む。途中、たくさんの野菜も加えている。2週間経ったところで漉す。トマトとコクを出すためのエダムチーズ、オレガノ、タイム、セージ、ナツメグの香辛料類で味を整える。再度丁寧に濾すことでなめらかなドミグラスソースができる。別途、牛すね、牛すじ、鶏ガラ、野菜でブイヨンを作っておき、料理にドミグラスソースを使う際には、ブイヨンで濃度を調整している。
技のポイント3

  
しっかりと牛バラ肉の表面を焼く
牛バラ肉の表面をしっかりこんがりと焼くことで、肉の中にうま味を閉じ込める。長時間に煮込んでも、肉自体にうま味があり、やわらかくジューシーである。
技のポイント4

牛バラ肉は、水と赤ワイン、トマトのスープで煮込む
フライパンで、こんがり焼いた牛バラ肉を鍋に入れ、水、赤ワイン、トマトをベースにしたスープを入れて、牛バラ肉が柔らかくなるまで、約3時間煮込む。
おすすめメニュー1

カキグラタン(10月〜3月)1,300円(税込み)
10月〜3月までの期間限定メニュー。
白ワインをふったカキをボイルする。グラタンのホワイトソースは、ホワイトルーを牛乳と塩で味を整えて作る。
カキのカラに、ボイルしたカキを並べ、温めたホワイトソースをかけて、溶けるチーズをのせる。サラマンダーでこんがりと焼き目をつけてできあがり。
ホワイトソースは、カキの味を邪魔せず、カキそのものを味わえるシンプルなグラタンである。カキから出る塩加減が、優しいホワイトソースと絡んで絶妙の味わい。
おすすめメニュー2

カニコロッケ 1,200円(税込み)
ズワイガニの身を使用。カニの身、バターで炒めたタマネギをホワイトルーで和える。たっぷりのカニの身と炒めたタマネギをつなぐ役割のホワイトルーは少なめ。牛乳、塩、胡椒、みりんで味を整え、俵型に成形。小麦粉、卵、パン粉をつけて揚げる。
とろっとしたクリームコロッケではなく、カニの身がたっぷりのまさしくカニコロッケ。コロッケの下のトマトソースは、鶏ガラ、野菜を煮込んたブイヨンを加えた手作りのトマトソース。このトマトソースも4日かけて作る。
  • お店紹介

    左から店長・高橋啓之氏、チーフ・土井三郎氏、サービス・近藤早苗氏


    今も裏露地に入ると昭和の風情の残る街で、畳に座って、お箸でいただく洋食の数々は、若い世代にとっても、なぜか懐かしく、落ち着いた時間を醸し出す。
    芳味亭の味は、横浜ニューグランドで西洋料理の修行をした初代・近藤茂治氏が作り上げた味。現在のチーフ・土井三郎氏は、10代から芳味亭で修行を初めて約50年。今、初代の味を守り続けられるのは、土井氏の経験と舌があってこそ。目で見て、体で感じて覚えた初代・近藤氏の味を継承している。
    昔ながらの洋食のおいしさの要は、「素材のうま味を十分に引き出すことで、どれもいたってシンプルな料理」だと土井氏は言う。「お客様においしいって言われるとうれしいから作り続けています」と笑顔がほころぶ。現在も、創業当時から続く味を守りつつ、磨きあげている。
  • 基本情報

    店名 芳味亭
    住所 東京都中央区日本橋人形町2-9-4
    電話 03-3666-5687
    営業時間

    平日 
    昼 11:00~14:00(L.O) 
    夜 17:00~20:00(L.O)

    定休日

    日曜

    席数

    50席

    主な客層 老若男女問わず幅広い。常連様、新規様と様々。
    1日の客数 約100人
    予算の目安 昼 2,000円位 夜 4,000円位
    開業 1933年
  • 掲載内容は取材時点での情報であり、記事内容、連絡先、営業時間などが変更になる場合があります。