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(東京都/千代田区)
蕎麦好きの間で知られる神保町の「松翁」。評判の天ぷらは、注文を受けてから店頭に設置された生け簀の穴子やエビを絞め、さばき、下ごしらえをして揚げる。
会社員だった店主・小野寺松夫さんがそば職人を志したのは39年前。4年間の修行を経て、31歳で独立開業した。「最初は冷凍エビや穴子を普通に仕入れていたのですが、鮮度を追求しているうちに、生け簀を持つしかないと思うようになりました」。
素材の質や鮮度へのこだわりと、手間暇をかけて作られてきた松翁の味。今回は特に人気の高い二色天もりをクローズアップします。
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クローズアップメニュー
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二色天もり 2,450円(税込み)
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並みそばと変わりそばの2種類のそばと、活海老、活穴子、数種の野菜の天ぷらが味わえる。本日の変わりそばは「伊予柑切り」。
並そばは、茨城県産常陸秋そばを使用。玄そばのそば殻を取り除いた丸抜きを店内で製粉。そば粉に水(約50%:割合は季節により変わる)を加えて打つ十割そば。
変わりそばは、御膳粉を使用。本日の伊予柑切りは、伊予柑の中果皮(白い部分)を取り除いた外果皮をミキサーにかけ、御膳粉、小麦粉(2割)に水を加えてこねる。
鮮度と味を追求した結果、天ぷらは、活海老と活穴子に行き着いた。天ぷらは揚げ立てがおいしいので、手間を惜しまず揚がったネタごとに客のテーブルに運ぶ。エビのしっぽがきれいに開いているのは、直前まで生きていた証。
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技のポイント1
だしは、真昆布、本枯れ本節、干し椎茸。そば釜を使ってとる。
だしは、北海道の真昆布、枕崎の本枯れ本節、干し椎茸。真昆布と干し椎茸は、前日から水につける。本節は、都度薄く削る。真昆布を漬けた水に干し椎茸のだしを加え、沸騰直前で真昆布を取り出し、8%の削り節を入れる。アクをとり、ネルと木綿を重ねたもので濾す。そば釜を使ってだしをとるのもポイント。削り節が湯のなかをよく回る。
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技のポイント2
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濃口と淡口、2種類の生かえしを使用
濃口(写真右)は、小豆島の正金醤油、グラニュー糖、三河本みりん。かえしの基本は、醤油1斗、みりん1升、砂糖1貫といわれ、当初この割合で作っていたが、現在は、みりんを多くし、砂糖を少なくしている。
淡口(うすくち)の場合、醤油は白醤油(キノエネ醤油)に淡口醤油(正金醤油)を加えている。淡口は、独自に考えた関西風。色は薄いが、塩分的には、濃口より若干多い。ちなみに、温かいそばのつゆは、淡口と二番だしで作っている。
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技のポイント3
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ネタの鮮度を追求した生け簀
冷凍エビや穴子では色や臭いが気になり、鮮度にこだわった結果、生け簀にたどり着いたという。注文を受けてから捌くので新鮮そのもの。
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技のポイント4
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天ぷらは、綿実油と胡麻油でさらりと揚げる
天ぷらの衣は、500ccの水に卵2個の割合の卵液に小麦粉。
油は、綿実油に胡麻油を混ぜている。衣の軽い、さらりとした天ぷらで、活きのいいネタのおいしさを十分に引き出す。
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おすすめメニュー1
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牡蠣そば 1,950円(税込) 冬期限定10月〜1月
冬期にしか食べられない磯の香りが口の中に広がる温かいそば。
注文が入ってから殻をむく牡蠣は新鮮。だしでさっと火を通した牡蠣はふっくらして生牡蠣のような絶妙なおいしさ。つゆは、淡口に二番だしを合わせる。三つ葉、ほうれん草、ねぎ、甘辛煮の椎茸、絹さや、かまぼこ、牡蠣の下にはのりと、多くの種物が並ぶ。1日30品目摂取がよいとされるので、少しでもいろんなものを召し上がってもらいたいと思う気持ちが込められている。
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おすすめメニュー2
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穴子煮こごり 710円(税込)
生け簀から取り出した穴子を捌く。熱湯で皮のぬめりをとった穴子を細かく刻み、淡口に二番だし合わせたつゆに、濃口、ゼラチンを加えて煮て、型に入れて冷ます。新鮮な穴子に加えて、だし、かえしで煮る煮こごりは、穴子とだしのうま味がたっぷり出ている。
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おすすめメニュー3
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つみれ大根 790円(税込)
つみれは、捌いたいわし、ねぎ、生姜、くず粉少々、味噌をていねいに包丁でたたいて作る。だしでやわらかく炊いた大根に、つみれ、ほうれん草、人参、生姜と彩り鮮やかに盛りつける。ふわっとしたつみれには驚く。だしで炊いたやさしい味わいが口いっぱいに広がる一品。
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お店紹介
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店主の小野寺松夫さん
小野寺さんが、数年のサラリーマン生活を経て、この道にすすんだきっかけは父親の作るうどんだった。「料理人ではないけれど、父親の作るうどんが素朴でおいしくて、自分にもできるのではないかと思った」という小野寺さん。
20代後半に突然この道に飛び込み、数年、そば屋で修行。その後、31歳で独立・開業した。自分の好きなようにできるのはよかったというが、だしのとり方に始まり、独学で研究して、自分のスタイルと味を確立してきたのは並大抵の努力ではない。老舗のような秘伝の味がない分、それを少しでも補おうと、自分自身が納得できる良い素材を探し求めて来た。その間、あえていうなら料理の師匠は奥様だった。老舗のフランス料理店のシェフを父親に持つ奥様のアドバイスは大きかったという。
そして、おいしさを追い求めた結果が「新鮮」と「すぐ」。
店内の生け簀ではエビが、店頭の生け簀では穴子が元気に動き回っている。注文を受けてからこれらをしめて捌く。そば粉は店でひく。天ぷらは、揚がるネタごとにお客様のテーブルへすぐに届ける。「新鮮」と「すぐ」を極めた形がここにある。
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基本情報
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店名 |
手打蕎麦切 松翁 |
住所 |
東京都千代田区猿楽町2−1−7 |
電話 |
03-3291−3529 |
営業時間 |
月−金 11:30~15:30
17:00〜20:00
土 11:30~16:00
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定休日 |
日・祝祭日
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席数 |
1階 24席/2階 12席(1日1組限定、4名〜、コース料理のみ)
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主な客層 |
お店を目的に来てくれる馴染みのお客様。女性も多いが、夜は酒を飲む年配の男性が多い。
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1日の客数 |
日によって異なる
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予算の目安 |
昼 1,000〜3,000円位
夜 3,000〜6,000円位 |
開業 |
1981年 |
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