(東京都/新宿区)
旬の食材を活かした料理と、店内外に息づく木々や花々、さりげないしつらえなどにより、季節感あふれる上質な時間と空間を提供している「葉歩花庭(はぶかてい)」。独特の雰囲気が漂う飲食店街として知られる東京・神楽坂にあって、やわらかながら確かな個性を放ちつつ、訪れる人を温かくもてなしています。訪日外国人客も多く、食を通して日本の魅力を伝えています。
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クローズアップメニュー
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鰤のいぶしサラダ仕立て(会席料理の一部)
日本一おいしいといわれる富山・氷見の寒ブリを使用。これを柵取りして数分燻すことで半生の薫製にし、スライスして、緑鮮やかなベビーリーフ、クレソンと合わせたシンプルな一品。このままでも十分うま味があるが、自家製バルサミコ醤油やピンクペッパーを加えるとまた違ったおいしさを楽しめる。葉菜をブリでくるんで食べるのもおすすめ。稲藁による薫製料理は「葉歩花庭」の名物で、モクモクと立ち上る煙を吸い込む強力なダクトも完備している。年間を通じてカツオを使用することが多く、ほかに〆サバ、焼いた牡蠣などをさらに燻して提供することもある。あしらいは菊の花の甘酢漬けと菊花蕪。あしらいもまた、季節によってさまざまだ。
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技のポイント1
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寒ブリを適度な大きさに切り、串打ちして塩をあてる
寒ブリは骨を抜き、皮を剥いだあと適度に切り分け、金串を数本打つ。この状態で粗塩を均等にあてれば準備完了。薫製剤などは使わない。
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技のポイント2
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2つに割った一斗缶に稲藁を敷き、急速に燻す
燻しに使用するのは稲藁。まずは半分に割った一斗缶に稲藁を敷き、串打ちした寒ブリを乗せ、蓋(缶の上部)をかぶせて強火にかける。ときどき蓋を持ち上げ空気を入れるとより強い煙が得られる。最後に藁に息を吹きかけ炎を立たせ、この炎でブリの表面の脂を落とし、香ばしく仕上げる。桜チップなどに比べて短い時間で十分に燻すことができ、香りも強いので、クセのある食材を使うときや内側を生にしたいときなどにぴったり。
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技のポイント3
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冷やしすぎない状態で提供。バルサミコ醤油でうま味をプラス
燻した寒ブリは冷凍庫で冷まし真空パックで保存。提供する直前にスライスする。提供時の温度は4〜5度が目安。冷やしすぎないのが風味を生かすポイントだ。バルサミコ醤油は、半量程度になるまで煮詰めたバルサミコ酢とたまり醤油を合わせたもので、バルサミコ酢を鍋で熱し、酸味を飛ばすと同時にこってり感をつけ、これを冷ましてからたまり醤油と半々の割合で合わせれば出来上がり。酢、醤油ともにクセのないタイプを選ぶと燻しの香りがより引き立つ。
オススメメニュー1
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お椀(会席料理の一部)
海老真丈とミツバで巻いた白魚を使ったお吸い物。京都から取り寄せる血合い入りのカツオ節でとったダシはすっきりした中にもコクがある。海老真丈は、殻と背わたを除いた芝エビを裏ごしし、生身(鱧のすり身)と合わせて昆布だしで茹で上げる。白魚は特大サイズを使用しており目にも楽しい。
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オススメメニュー2
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けんちん焼き(会席料理の一部)
鰆(さわら)を三枚下ろしにしてから柵取りし、観音開きの状態で、柚子、醤油、酒、みりんなどで作った調味液の中に1時間程度漬け込んでおく。豆腐、卵、つなぎの山芋などを鍋で炒り、醤油、砂糖などで味つけしたら、刻んだキクラゲ、ユリ根、ギンナン、ニンジン(京人参)を入れて棒状にまとめる。これを鰆の上に乗せ、観音開きを閉じるようにして包み、たこ糸で結わいたら、コンベクションオーブンで焼き蒸しする。サワラに火が通れば出来上がり。カットして提供する。切り口がなんとも美しい、店主の得意料理のひとつである。
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お店紹介
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「食事をしながら季節感を味わえるのが和食の良さ。この季節感は日本の美しさでもあると思います」と語る店主の羽深知己さん(写真左)と弟子の弘田翔太さん
「食材とは、言ってみれば一度は死んだ動植物です。その命を託され、違うかたちで生き返らせてお客さまに提供する。そういうサイクルの架け橋となるのが料理人の役割です。だからおいしくしてあげなければいけない。おいしくつくって動物や植物を成仏させてあげなければ」。「葉歩花庭」の店主、羽深知己さんが料理と向き合う自らの姿勢をこう語る。
「葉歩花庭」という店名に、店主の名字が隠れているのは見ての通りだが、ほかにも「葉が歩んで花となる=葉の働きがあってこそ美しい花が咲く」という生け花の教えや、「季節ごとのおいしさ、美しさをお客さまとともに楽しめる庭のような存在でありたい」という思いがこめられている。
「葉が歩んで花となる」は、園芸を学び、お店の前の植木や店内に飾られたお花、しつらえなどをすべて担ってくれている妻、みはるさんの師匠の言葉。「この言葉を教えていただき、花を生かす生け花と食材を生かす料理は似ているねと、女房と話しました。だから開業時から当店は“料理と花”をコンセプトにしています。ほかにあまりないコンセプトを持ち、ぶれない考え方でやってきたことがお店の個性につながり、この神楽坂で10年続けることができたように感じています」と羽深さんが「葉歩花庭」の歩みを振り返る。
料理は会席のみで、基本的に予約制。「旬の食材を生かすためには1カ月ごとにメニューを入れ替えるとよいのですが、私の場合、同じものを作っていると飽きるので、二十四節気を目安にどんどん入れ替えてしまいます。そんな私のわがままにお客さまがつき合ってくださっている感じです」と楽しげだ。
古民家由来の古材を多用した店内は温もりがあり居心地満点。そこで味わう手のこんだ料理と気のきいた接客。接待で訪れた男性の多くが「今度は女房を連れてくるよ」と言い、その後本当に夫婦連れ立ってやってくるというエピソードが、このお店のあり方を雄弁に物語っている。
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基本情報
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店名 |
葉歩花庭(はぶかてい) |
住所 |
東京都新宿区津久戸町3-3 |
電話 |
03-5848-3911 |
営業時間 |
ランチ(土曜のみ)11:30~14:00 ディナー 18:00~22:30(L.O 食事21:00、飲みもの22:00) |
定休日 |
日曜、第1月曜
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席数 |
18席
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主な客層 |
ランチ 女性を中心にグループや夫婦 ディナー 接待客、夫婦
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1日の客数 |
ランチ 18人
ディナー 10〜12人 |
予算の目安 |
ランチ 4,104円〜
ディナー 7,560円〜 |
開業 |
2004年2月(2007年春、現在の場所に移転) |
ウェブサイト |
http://www.habukatei.jp
/top.html |
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