(東京都/新宿区)
1973年にバーとして開業し、3年後に和食店に転じて40周年を迎えた「志ら井」。「鴨鍋」「釣きんき煮付」などの名物料理をはじめ、単品のおつまみから食事、コース料理までメニューが豊富です。味付けの特徴は角がなく深みがあること。特にここでクローズアップする煮魚は、濃厚そうな見た目とは裏腹に、しょっぱさをほとんど感じさせないまろやかさが魅力。お店の歴史とともにあるオリジナルのタレが独特の味を生み出します。
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クローズアップメニュー
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釣きんき煮付 3,800円(税別/仕入値によって価格の変動あり)
脂の乗りがよく、豊かなうま味が特徴の白身魚、キンキの中でも、一本釣りされたものを厳選して使用。これを秘伝のタレでじっくり煮て提供している。このタレは、開業時に醤油、みりん、砂糖だけでつくったベースに長年継ぎ足しを重ねているもの。煮上がった魚はみりんの効果で照りが良い。色が濃いため醤油味が強そうに見えるが、食べると意外なほどまろやかで甘みが際立つ。この見た目と味のギャップが食べる人を驚かせ、楽しませている。オススメメニューの鴨鍋と1、2を争う看板メニューだ。
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技のポイント1
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霜降りしてうま味を閉じ込める
魚の臭みやぬめりを取り除くために欠かせない下処理、霜降りには、うま味を閉じ込める効果もある。ボウルに入れた魚に熱湯をかけた後、水で冷まして掃除をするのが一般的だが、「志ら井」では、丸のままの魚の霜降りの場合は、予めウロコや汚れを取った魚をザルに乗せ、そこに熱湯をかけた後、流水で洗う方法をとっている。こうすることで出来上がりがより美しくなるという。
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技のポイント2
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煮付のタレは新鮮な高級魚にしか使わない
タレを保存している鍋に火入れし、魚を直接入れて煮るが、このタレで煮る魚は、新鮮なキンキ、ノドグロ、メバルに限定しているため、使用するごとに上質なうま味が加わることになる。また、使い終わったタレは毎日きれいな鍋に移し替え、使った鍋のへりに固形化して付着したタレを洗い流す。この作業を繰り返すことでタレが新鮮に保たれる。
技のポイント3
スライスしたショウガやゴボウで臭みを取る
「おいしく食べていただくためには臭みを極力なくすこと」と、魚を入れる前にスライスしたショウガを投入。また、魚と一緒に付け合わせのゴボウも煮るが、これにも臭み取りの効果がある。
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技のポイント4
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落としぶたをして強火5分、弱火10〜15分
鍋に魚を入れたら落としぶたをして均等に味をつける。吹きこぼれ防止のため小さめのふたを使用する。火加減と時間は弱火で5分、強火で10〜15分。タレをかけながら煮る技法と違い、魚の全身がタレに浸かっているため、味が入り過ぎないように注意する。新鮮な魚をきれいに処理して用いればあくはほとんど出ないが、もし出てきたら丁寧に取り除く。
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オススメメニュー1
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鴨鍋 一人前2,600円(二人前から対応/税別)
スライスした鴨肉と、小松菜、長ネギ、エノキタケ、シイタケ、近所の老舗豆腐店から仕入れる大豆の風味の強い木綿豆腐を、カツオの一番だしベース・醤油仕立てのスープで煮て食べる冬の看板メニュー。一般的な鍋料理同様、火の通りにくいものから順次煮る。鴨肉は最後に他の具材の上に乗せるように入れ、煮え過ぎないように注意する。スープの入った鍋と大皿に盛った具材を別々に用意し、客席で若女将が調理する。写真のようにピンク色になったら食べごろ。先付け、茶碗蒸し、お刺身、煮付、ぞうすいを合わせた「鴨鍋コース」(5,500円〜)も人気。
※茶碗蒸しやご飯ものでも用いるカツオの一番だしは、鍋に水を張って差し昆布をして冷蔵庫で一晩寝かしたものを80〜90℃まで温め、特上の血合い入りカツオ節をたっぷり加えて漉してつくる。
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オススメメニュー2
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フォアグラの茶碗蒸し コース(5,500円〜税別)の一部
いわゆる茶碗蒸しの生地にフォアグラをたっぷり練り込んだ個性的な一品。卵とフォアグラを一緒にミキサーにかけ、撹拌しながら、冷ました合わせだし(鶏ガラスープとカツオの一番だし)をゆっくり加えるのが均等に仕上げるコツ。舌触りはつるつるというよりクリーミーで、ムースを思わせる。上にかけたシンプルな銀餡がフォアグラの風味を一層引き立てている。芽ネギと黄柚子も爽やか。先付け、茶碗蒸し、お刺身、煮付、焼き物、揚げ物、食事で構成されるコースの一部として提供している。
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オススメメニュー3
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金目鯛かぶとの土鍋炊きご飯 コース(5,500円〜税別)の一部
米を洗い、夏なら30分、冬の場合は40分吸水させてから水を切る。これを土鍋に入れ、カツオの一番だし・薄口醤油・酒・みりんの合わせだしを注ぎ入れる。米の上に霜降りした金目鯛のかぶとを乗せ、臭み消しのための針ショウガを加えてふたをして、最初は強火で炊く。吹きこぼれる直前に火力を弱めて10分炊いて火を止め、10〜15分蒸らして出来上がり。いったんテーブルに運んで炊きあがった状態を見せてから厨房に戻し、ほぐしながら骨を取り除いて器に盛って提供する。
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お店紹介
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家族経営の温かさも「志ら井」の魅力。右が初代の白井武志さん、女将の美知子さんご夫妻、左が2代目の直樹さんと若女将の瑠美さんご夫妻
「志ら井」は、東京・四谷のしんみち通りでバーを営んでいた白井武志さんが、1975年に心機一転始めたお店。「料理人だった私の弟の協力を得ながら、ほぼ独学で和食の技術を身につけました」と武志さん。当時、この通りにはまだ少なかった天ぷらや海鮮丼を提供し口コミでファンを増やしてきた。
日本料理の老舗「なだ万」をはじめ、東京や神奈川の和食店で経験を積んだ息子の直樹さんと一緒に仕事をするようになったのは2005年のことだ。同じ頃、内装のリニューアルも実施。現在は、“マスター”と呼ばれ親しまれる武志さんと、その妻で女将の美知子さん、2代目である直樹さんと妻で若女将の瑠美さんという家族4人で力を合わせ、おいしい料理と温かなサービスを提供している。美知子さんと瑠美さんが、「お客さまに少しでも喜んでいただけたらと思って」と習っている、フラワーアレンジメント(造花)が店内随所に飾られ、季節感を演出している。
武志さんの仕事は徐々に直樹さんに受け継がれているが、鴨鍋と煮付だけはいまも武志さんが担当している。客席とメインの厨房は1階だが、2階に鴨鍋と煮付専用のキッチンがある。「微妙な味の調整はまだ私には難しい」と直樹さんが言う。
そんな直樹さんが最も大事にしているのは、新鮮な食材を自ら選ぶこと。ほぼ毎日、築地市場に足を運び、イキの良い魚や野菜を自分の目で確かめて仕入れている。魚は1本釣りで捕獲されたもの以外は使わない。「夜のメニューに集中して力を入れたいと思って、ランチ営業は行わず、その分仕込みの時間を長くとっています。これからも料理人の自分が納得できる食材を、手間をかけておいしく仕上げて提供していきたいと思います」と語る。
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基本情報
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店名 |
志ら井 |
住所 |
東京都新宿区四谷1-20 |
電話 |
03-3341-1293 |
営業時間 |
17:30~23:30(23:00L.O.) |
定休日 |
土日祝日(土曜は団体客のみ予約受付)
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席数 |
19席
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主な客層 |
近隣で働く人、住民
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1日の客数 |
15〜20人 |
予算の目安 |
7000〜8000円 |
開業 |
1973年 |
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※掲載内容は取材時点での情報であり、記事内容、連絡先、営業時間などが変更になる場合があります。