【洋菓子】パティスリー タツヤ ササキ 阿佐ヶ谷店

東京都/杉並区

フランス菓子というと日本では華やかで高価なイメージですが、本場では焼き立ての菓子を店頭に並べ、安価で提供する店も数多く存在します。佐々木達也さんはフランス修業時代、そうした店に出会い、普段使いで気軽に食べられている菓子の在り方に感銘を受け、帰国後に「パティスリー タツヤ ササキ」を開業しました。色鮮やかな生菓子はほかの店に任せ、昔ながらの伝統的な焼き菓子に特化。ショーケースに並ぶタルトは、その日の分だけ毎朝焼き上げています。季節に合わせて常時10数種類、焼き菓子も鮮度を意識した10数種類を提供。また、佐々木さんは弟子を採らないフランスのジャム職人、エヂィルダ氏のもとで修業した唯一の弟子。いくつもの農家から直接分けてもらった旬の材料で、エヂィルダ氏仕込みのジャムも常時20種類ほど展開しています。
 
クローズアップメニュー
タルトレット ノルマンド 450円(税込)
フランスのノルマンディー地方はリンゴと酪農の一大産地で、「タルト・ノルマンド」は生クリームとリンゴを使った代表的な郷土菓子。本場ではサワークリームのような硬さの生クリームが使われますが、「パティスリー タツヤ ササキ」の「タルトレット ノルマンド」では、生クリームの代わりにフロマージュブランを使用しています。パート・シュクレ(タルト生地)に、契約農家から取り寄せた紅玉を生のまま詰め、フロマージュブランで仕立てたアパレイユ(液ダネ)を流し込んで焼き上げます。アパレイユが程よく染み込んだタルト生地はサクサクとした食感。プリンのような濃厚さと、フロマージュブランの上品な酸味が、リンゴの甘酸っぱさ引き立てています。リンゴのみずみずしさとシャキシャキ感が後を引く逸品です。
技のポイント1
生地のベースになるバターはポマード状に仕上げます
まずはタルト台のパート・シュクレ作りから。材料は全卵、アーモンドパウダー、中力粉、粉糖、無塩バター、粗塩。薄力粉でもおいしくできますが、小麦粉の風味と硬さを本場に近づけるため、ここでは中力粉を使います。
冷蔵庫から取り出した無塩バターをラップで包み、電子レンジで柔らかくします。柔らかさの目安は面取りしたように角に丸みが出る程度。最初は10秒単位で様子を見ながら電子レンジにかけ、次第にワット数や秒数を微妙に調整しながら柔らかくしていきます。電子レンジを使う目的は時短になるからですが、もう一つの理由は油脂の酸化を防ぐため。溶かさないよう電子レンジをこまめに調整するのがコツです。
柔らかくなったバターをボウルに移して、泡立て器で練っていきます。ダマもキレイにつぶすため、時には火に当てたり下ろしたりしながら、少しだけ熱を加えて練り込み、ポマード状の滑らかな状態に仕上げます。
バターに粗塩を加えては練り、粉糖を2~3回に分けてはゆっくり練っていきます。塩や砂糖は塊になりやすいので、少しずつ混ぜるのがコツ。また、ここで重要なのが泡立て器の握り方です。親指をグリップの上側にし、5指でグリップを包み込むようにしっかりと握ります。そして、空気を入れないよう注意して混ぜます。空気が入ると、焼いている最中に破裂してしまうこともあります。ここまでの練りをしっかり行うことで、焼き上がりに大きな差が出ます。
 
技のポイント2
卵を少しずつ加えて乳化させ、材料をつなげてまとめ上げます
全卵は常温に戻してから、泡立てないよう攪拌しておきます。前述のボウルにアーモンドパウダーを入れて混ぜたら、溶いた卵を2~3回に分けて少しずつ加え、空気を入れないように混ぜ合わせて乳化させていきます。乳化は分離していたものがつながり、つなげた核をまとめていくイメージ。乳化することによって、この後に加える小麦粉のグルテンの発生を防ぐのが狙いです。一つひとつ材料を加えるごとに、攪拌には細心の注意を払います。
中力粉を加えたら、ゴムベラでさっくり混ぜ合わせます。粉っぽさがなくなったら、カードでボウルに残った生地を無駄なくかき出し、ラップで包んで冷蔵庫で1時間程寝かせます。冷やすのはグルテンを落ち着かせるのが目的ですが、生地が固まることで伸ばしやすくするためでもあります。
台に打ち粉をして冷たいままの生地を伸ばします。3mm程度まで伸ばしたら、ピケローラーで生地に穴を空けて型で抜いていきます。焼き型にすましバターを塗り、生地をはめます。
技のポイント3
アパレイユも卵は数回に分け、徐々に硬度を下げて一体化させます
薄力粉、コーンスターチ、グラニュー糖、バニラオイル、フロマージュブラン、全卵が、生地の上に流し込むアパレイユの材料。本場のノルマンディーでは、硬さのあるさっぱりした生クリームを使用しますが、日本には同様の生クリームがないため、この店ではタカナシ乳業株式会社の「フロマージュブラン・ドゥ・ノルマンディー」(写真手前右)を起用しています。ノルマンディー産の生乳で作られた、爽やかな酸味とコクがあるフロマージュブランです。
泡立て器で柔らかくなるまで練ったフロマージュブランに、溶き卵に粒子の細かいグラニュー糖を混ぜた卵液を数回に分けて少しずつ加えます。ここでも混ぜる際に、空気が入らないよう注意。硬さのあるものに柔らかいものを少しずつ加えていくことで、硬度がゆっくり下がりまとまりやすくなります。焦らず丁寧に作業するのがポイントです。
薄力粉とコーンスターチをふるいにかけ、前述のボウルに加えて泡立て器で混ぜます。混ぜていくうちに優しく甘い香りが立ってきます。全体がなじんだところで、ほんの少しバニラオイルをたらせば、アパレイユの出来上がり。冷やしておけば、2~3日は保存がききます。
ここで主役のリンゴが登場。使用するリンゴは香りが強く、酸味のある紅玉で、契約農家から取り寄せています。皮をむいて8等分にカット。加工せず、生のまま使用するのがノルマンディー流です。
パート・シュクレを敷いた型に、約2分の1個分のリンゴを詰め、アパレイユをリンゴの上から全体に回しかけていきます。焼いた時にリンゴが焦げないよう、アパレイユでリンゴをコーティングするイメージです。回しかけながら型の8割くらい流し込みます。
コンベクションオーブンは「ダンパー閉」の状態に。あらかじめオーブンを190℃ほどに予熱しておき、180℃設定で焼き上げます。焼き加減は焼き色を見て決めますが、目安は30分程度。20分経った頃から注意して、製品の状態を見守ります。焼き上がったら型から外し、網の上で常温になるまで冷まします。粉糖をかければ完成です。
オススメメニュー1
ミルリトン ド ルーアン 240円(税込)
パイ生地に生クリームを使った軽めのアーモンドクリームを詰め、たっぷり粉糖をかけて焼き上げた、フランスの都市・ルーアンの郷土菓子。まろやかなアーモンドクリームにはオレンジフラワーウォーターが入っていて、アーモンドの香ばしい味わいの中に、オレンジのシャープですっきりした香りが立ちます。焼いているうちに溶けて焼き色がついた粉糖が、ザクザク、カリカリと心地よい噛みごたえを生みます。噛むほどに粉糖の甘味が広がっていきます。
オススメメニュー2
マカロン ア ランシエンヌ 880円 (税込)
フランス語で“古いマカロン”という名の「パティスリー タツヤ ササキ」のスペシャリテ。400年以上の歴史があるフランスの伝統菓子で、かつて修道女が焼いていたマカロンを再現しています。焼き紙(オーブンペーパー)ごと販売しているのが大きな特徴で、これが本場のスタイル。材料はアーモンドパウダーに砂糖、卵白、少量の転化糖のみで、製法は企業秘密。良質なアーモンドパウダーを使用しているので、アーモンドの風味豊かで、アマレットのような華やかな香りが際立ちます。表面はサクッ、中はもっちり粘りのある食感です。また、焼き紙はついていませんが、小売りの「マカロン ナチュール」1個100円もあります。
オススメメニュー3
たっちゃん芳醇バタークッキー 箱入り486円 (税込)
3カ月の開発期間を経て誕生した、佐々木さん渾身のクッキー。箱のデザインも自ら手掛けた自信作です。フランス産発酵バターをたっぷり使い、小麦粉、塩、砂糖のみで作られています。卵を使っていないので、サクサクと食感が軽やか。手作り感のある素朴な味わいに、バターの濃厚で贅沢な香りが鼻孔をくすぐります。「一口目で油(バター)が口の中に被膜を作り、(風味が残った状態での)2口目がもっとうまい」と佐々木さん。箱は10枚入りで、5枚袋入り190円もあります。

  • お店紹介
    「フランス人に愛され続ける大衆的な菓子は、1個から気軽に買える日常のおやつです。日本でもそういう菓子が広まるよう材料にはこだわりつつ、リーズナブルに提供できる菓子作りに励んでいます」というオーナーパティシエの佐々木達也さん。
    佐々木さんは西東京調理師専門学校に続き、国際製菓専門学校を卒業後、吉祥寺の洋菓子店で修業。独学で菓子作りを続けながら、渡仏の資金調達のためにサラリーマンを経験。その後念願のフランスへ渡り、ノルマンディー地方の都市ルーアン近郊の町の菓子店で研修を受けました。「ル・フュレ・タンラード・PARIS」のオーナー、アラン・フュレ氏と出会い、彼の紹介でパリ市内のパン&菓子店に行きますが、しばらくしてフュレ氏のもとでもチョコレート作りを学び始め、製菓部とチョコレート部を任されるようになります。その後、ノルマンディー地方の一つ星レストラン「マノワール・リス」への短期研修やジャムフェスティバル出店、ジャム職人のエヂィルダ氏のもとでのジャム修業、「サロン・デュ・ショコラ・PARIS」出店と精力的に活動し、さまざまな経験を携えて帰国。2011年に実家の酒店を改装し、「パティスリー タツヤ ササキ 西八王子本店」をオープン。その6年後に、同阿佐ヶ谷店を開業しました。
    佐々木さんが菓子作りをする上でもっとも大事にしているのは、フランス伝統菓子本来の味を尊重すること。パウンドケーキやクッキーなど、それぞれ多彩な種類が存在する菓子はアレンジを加えるものの、たとえばフィナンシェに抹茶などの味をつけるのは好まないそうです。「極端にアレンジしてしまうと、もはや別物。オリジナルの名称を使ってはいけない気がする」と語っていました。フランス修業で培ってきた本来のフランス菓子を、日本で手に入る材料で、「菓子の性質や価格を本国に近づけたい」と、日々真摯に菓子作りと向き合っています。
  • 基本情報


    店名 パティスリー タツヤ ササキ 阿佐ヶ谷店
    住所 東京都杉並区阿佐谷北1-33-5 ナカネビル1階
    電話 03-5364-9306
    営業時間 11:00~20:00、月曜13:00~17:00、日曜・祝日11:00~18:00 ※月曜日はタルト系を除く焼き菓子のみの販売
    定休日

    6~8月の月曜日 ※祝日の場合営業、1/1~3も休業

    席数

    なし

    主な客層

    地域在住のファミリーや年配者。うち3割は30~40代の男性、30~40代の女性

    予算の目安 1,000円前後
    開業 2017年4月25日 ※西八王子本店は2011年9月1日
    HP https://www.tatsuya-sasaki.com
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