(東京都/台東区)
「中華料理 あさひ」はもともとは日本橋に店を構えていたものの、大戦に巻き込まれて一時閉店を余儀なくされ、戦後間もなく現地で営業を再開したという〝町中華〟の老舗です。四代目店主の植木隆一さんは先代から受け継ぐ味を守りつつ、10年ほど前からオリジナル商品の開発にも挑戦しています。今回ご紹介する四川冷やしそばやしょうがそばは、同店の新たな看板メニューとして人気ぶりを博しています。
-
クローズアップメニュー
-
四川冷やしそば 900円(税抜)
本来は季節商品である冷やしメニューながら冬季もお客さまからの要望が多く、通年提供となってしまったほどのヒット商品。担々麺からインスパイアされて作ったオリジナルの肉味噌とオーソドックスな冷やし中華スープを組み合わせが独創的でクセになる味を生んでいます。「四川」と銘打ってはいますが、強烈なパンチ力を放つ辛さと旨みには東南アジアや中南米といったエスニックスの要素も感じる味が特徴です。この肉味噌と合わせるスープは、すべての冷やし中華メニュー共通で使用しているベーシックなもの。植木店主曰く〝江戸前中華〟の王道をいく味ですが、個性的な肉味噌と合わせてもケンカすることなくまとまります。麺はラーメン用と同じ中細麺を使用していますが、水切り時に力一杯絞っても変わらぬコシの強さを保っているのが印象的でした。極細切りしたキュウリと錦糸玉子を麺を覆うように散らした見た目も涼しげです。
-
-
国産豚肉の外モモ肉を手切りで細かく刻むのが決め手
肉味噌の原料肉は生で仕入れた国産豚肉の外モモをブロックで仕入れて手切りしていきます。1センチ角前後にカットされた豚肉はゴロゴロとしており、肉らしい食感と旨みを表現するのが狙いです。肉は10kgを使って1度で約2週間ぶんを仕込みます。
-
アジアン、エスニックの要素も採り入れた独創的な肉味噌
料は写真左上から豆板醤、ハバネロ、韓国一味、甜麺醤、醤油、一味唐辛子、砂糖、麻辣醤、コチュジャン。
塩を使わずに調味料の塩分だけで味をまとめてしまうのが植木店主の流儀。豆板醤、麻辣醤、そして一味唐辛子、韓国一味で辛さのベースを作り、ハバネロは辛さのインパクトを加えて中毒性の高い味に仕上げるカギになっています。そこに砂糖、甜麺醤、コチュジャンでコクを出しています。
-
豚肉を炒めて肉汁が出てきたところですべての調味料と豚骨スープを投入して佃煮を作る要領で煮詰めていきます。「肉を痩せさせてから太らせる」と植木店主は言いますが、肉汁が出てくる程度まで深く炒めてから調味料を加えることで肉が味を吸い込んで一体感のある肉味噌になるのです。
-
技のポイント3
醤油ダレは江戸前の味をシンプルに表現
醤油ダレは江戸前中華の王道をいく米酢の酸味を活かしたオーソドックスなもの。米酢と醤油を1対1の割合で合わせ、砂糖をレンゲ10杯入れてひと煮立ちさせて完成とシンプルなレシピです。米酢のツンとくる酸味が控えめで「みたらし」を連想させる甘さに仕上げるのが店の個性になっています。これを肉味噌の上から回しかけて酸味と辛味、伝統と新しさを溶かし合わせて完成です。
-
-
オススメメニュー1
-
-
しょうがそば 750円(税抜)
売れ筋1位の看板メニューで、植木店主が5年ほどまえに開発したオリジナル商品です。スープは塩、胡椒、胡麻油のみとシンプルな塩だれを豚骨スープでのばしたもので、生姜は最後にチャーシューの上にたっぷりと盛りつけるだけという潔さ。これを溶きながら食べるのですが、最初は生姜らしいの爽やかな香りと辛味を感じ、食べ進むにしたがってスープと一体化して滋味深い味に変化していきます。スープは鶏ガラをベースに豚骨、豚足を加えています。香味野菜は一切使わない方針とのことですが、いやな臭みはまったく感じません。水から炊き出していき、3時間後くらいから使い始めますが、ガラは取り除かないで使用。もちろん時間が経つにつれて味が濃くなっていきますが、そうした変化も町中華の醍醐味。常連のお客さまは自分の好みの味に仕上がる時間を知っていて、必ずその時間帯に訪れるそうです。
-
オススメメニュー2
-
-
肉だんご 1,500円(税抜)
注文を受けてから挽肉を卵で練るところから手作りするので、コリコリとした食感とフレッシュな肉々しさが味わえます。肉に塩コショウも振ることなく仕上げる様子に驚きましたが、シンプルすぎるがゆえに他では味わえない、そして飽きの来ない味です。180℃前後のラードで揚げますが、表面はカリっとして、中はコリコリとした肉の食感に仕上がっています。あんの材料は米酢、醤油、砂糖を合わせて片栗粉で溶いたオーソドックスなもの。1個20g程度の一口サイズに丸めているので、アルコールのアテとして注文するお客さまも多いそうです。
-
オススメメニュー3
-
-
すぶた 1,600円(税抜)
一口サイズにカットした豚肉は片栗粉をまぶして180℃のラードで揚げますが、表面を固めて肉汁を閉じ込める程度の短時間です。その後にタケノコ、玉ネギ、干しシイタケ、ニンジンといった野菜をさっと油通しをした後に、肉と野菜を炒め合わせながら調味料を加えていきます。調味料はスープ、米酢、醤油、砂糖、水、胡麻油。最後に胡麻油を回しかけることで香りが立ち、酢のカドがとれたまろやかな味に仕上がります。
-
-
お店紹介
-
-
「海外旅行先の東南アジアで出会った中華料理をきっかけに、オリジナル商品を考える楽しさが芽生えました」と店主の植木隆一さん(左)。右は息子の植木隆正(たかまさ)さんん
浅草の仲見世や浅草寺、六区といった繁華街を抜け、言問通りを渡ったところに広がるエリアは「裏観音」「裏浅草」とも呼ばれ、隠れた名店が多い地域。かつては江戸時代から続く東京有数の花街として、多くの芸者さんの歩く姿を見ることができました。
戦後に日本橋から移転してきた「中華料理 あさひ」も、芸者さんたちと遊んだ〝遊び人〟たちが朝がたシメのラーメンを食べに立ち寄る気軽な店として愛されてきたそうです。当然、名だたる著名人や役者もご贔屓にしていたようですが、店の壁に色紙や写真を飾るような〝無粋〟なことはしていません。
現在厨房に立つ植木隆一さんは4代目。16才の頃に島根の日本料理店で3年間修業した後にあさひに戻り、出前持ちから始めました。29才の時に店を仕切っていた祖父が他界。当時、父は2店目を出していたことから隆一さんがあとを継ぐことになりました。
先代の味を再現することに注力していた隆一さんが、オリジナル商品を開発するようになったのが10年ほど前のこと。旅行で訪れた東南アジアで現地化された中華料理の味に新鮮な発見があったという。「本場の味とはほど遠いのですが、どれもおいしく今まで食べたことがない驚きもありました。それからもっと自由な発想で料理に向き合ってもいいのではと思うようになったんです」。
それをきっかけに開発された四川冷やしそばやしょうがそばはいまや同店の看板メニューとなり、これを目当てに遠方から訪れるお客さまも多くなりました。隆一さんの開発意欲は今も変わらず、メニューを記したホワイトボードの裏には、新メニューの試作品が文字通りの「裏メニュー」として書かれています。
3年前からは息子の隆正(たかまさ)さんも店に入り、親子二人三脚で切り盛りしています。ここ数年、裏観音エリアは花街からグルメの町として再評価されつつあります。「中華料理 あさひ」は花街の頃の歴史的な面影と新しい時代の潮流が重なったお店として愛されています。
-
-
基本情報
-
店名 |
中華料理 あさひ |
住所 |
東京都台東区浅草3-33-6 |
電話 |
03-3874-4511 |
営業時間 |
11:30〜15:00、17:30〜21:00 |
定休日 |
月曜、第3火曜日
|
席数 |
20席
|
主な客層 |
近隣住民、週末は目的客 |
予算の目安 |
昼1000円、夜2000円 |
1日の客数 |
昼100人、夜50人 |
-
※掲載内容は取材時点での情報であり、記事内容、連絡先、営業時間などが変更になる場合があります。
-