【洋菓子】Pâtisserie Noliette(パティスリー・ノリエット)

東京都/世田谷区

「Pâtisserie Noliette」は、スイーツ好きでなくともその名前を知るほど、全国的にも有名な正統派フランス菓子店。美しく、味わい深いケーキが並びます。どのケーキもおすすめですが、今回は中でも人気の高いピスタチオのムース「シシリア」をクローズアップ。ムースのふんわり軽い食感、クリーミーな味わいはどのようにして生まれるのか。その秘訣をオーナーシェフの永井紀之さんに伺っていきます。
 
クローズアップメニュー


シシリア 604円 (税込)
シチリア島はピスタチオの名産地。それにちなんで名づけられました。艶めくグリーンのグラサージュの下には、ピスタチオのムース、チョコレートムース、ジャンドゥーヤを絡めたフィヤンティーヌが隠れています。土台は、ピスタチオのダコワーズ。クレーム・シャンティイとピスタチオのマカロンをトッピングし、クラッシュしたピスタチオを散りばめています。どこを食べても、ピスタチオの旨味を存分に楽しめる仕上がり。口に入れた途端、ピスタチオの爽やかな香りが駆け巡ります。特有の青い風味が広がり、チョコレートムースと交わると、一層味わい深くなります。滑らかに口どけるムースの合間に顔を出す、フィヤンティーヌのサクサクした食感もいいアクセント。ピスタチオのムースから、ほのかに漂うハチミツのまろやかな甘味も人気の秘密です。
 
技のポイント1

ダコワーズ作りはメレンゲの立ち具合、混ざり具合が重要

卵白とグラニュー糖を立ててメレンゲを作ります。撹拌機で混ぜ合わせ、写真のように角が立つまで、しっかり立てるのがポイントです。卵白を使う生地は時間との勝負。メレンゲが出来たら、その後の工程を素早く行います。

メレンゲにピスタチオパウダー、アーモンドパウダー、粉糖を加え、シリコンヘラで混ぜ合わせていきます。均等に混ざったら攪拌をストップ。混ぜ具合が浅いとムラのある焼き上がりになりますが、混ぜすぎてもいけません。メレンゲの泡が消えて、仕上がりが固くなってしまうからです。メレンゲの気泡を潰さないよう、均等になる頃合いを見逃さずに注意深く混ぜ合わせます。
生地を丸口金の絞り袋に詰めます。天板にシリコン製ネットを敷き、その上に「の」の字を描くよう生地を円形に絞っていきます。

 
生地の上にまんべんなく粉糖をかけ、180℃のオーブンで12分程度焼き上げます。粉糖をかけるのは、必要以上に水分を飛ばさないため。焼き上がったら、冷ましておきます。
 
技のポイント2

イタリアンメレンゲに使うハチミツは、焦がさないよう温度管理をして煮詰めます

続いては、ピスタチオムースのふんわり食感を生み出すイタリアメレンゲ作り。永井さんいわく、「イタリアンメレンゲはスイスメレンゲなどに比べ、ほかの材料を入れても気泡が残りやすいという利点がある」そうです。通常は温めたシロップで作りますが、「シシリア」のイタリアンメレンゲは温めたハチミツで仕立てています。ハチミツは、クセがなく味がなじみやすいレンゲのハチミツを使用。ハチミツを火にかけて煮詰めます。焦げない程度に、116~118℃をキープ。120℃までいくと黒ずんだ濃い色になり、ムースの色に影響が出てしまいます。また、温めると徐々に泡立ってくるので、あふれそうになったら火を弱めるなどして微調整。そうして煮詰めている間に、撹拌機で卵白を泡立ていきます。
ほぼ角が立った状態のメレンゲを攪拌しながら、そこに熱したハチミツをゆっくり加えていきます。ハチミツの熱により、メレンゲが縮まなくなります。撹拌機の速度を下げて、熱が冷めるまで攪拌を続けます。冷めれば、空気をたっぷり含んだ状態を維持してくれます。しっかり固めのメレンゲができたら、冷やしておきます。
 
技のポイント3

 

クレーム・アングレーズの卵黄を温めてコクを出す見極めは“とろみ”

ムースの要であるクレーム・アングレーズ。この出来栄えで、おいしさが左右される大事な工程です。まず、牛乳を銅鍋で火にかけます。温めている間、ボウルに入れた卵黄にグラニュー糖を投入。泡立て器で混ぜ合わせておきます。そこへ沸く直前に火から下ろした牛乳を、2回に分けて混ぜ合わせ、銅鍋に戻します。


  
鍋を火にかけ、シリコンヘラでしっかりかき混ぜながらとろ火で温めます。ここが重要なポイント。卵黄は温めることでコクが出ますが、火加減を間違えたり、温めすぎたりするとダマになってしまいます。シャバシャバした状態から、ポタージュスープのように少しとろみが出るギリギリのところまで温めるのがコツです。鍋を火から下ろしたら、すかさず板ゼラチンを投入。余熱でゼラチンを溶かしていきます。ゼラチンが入ることで温度が下がり、卵黄に火が入りすぎないようにもなります。

 

クレーム・アングレーズとピスタチオのペーストを合わせる工程へ。ピスタチオ特有の青みがかったすがすがしい香りやコクのある味わいが際立つよう、3種類のピスタチオのペーストを調合しています。クレーム・アングレーズを濾しながら、2回に分けてピスタチオのペーストに加え、泡立て器で混ぜ合わせていきます。ピスタチオの風味を生かすため、バニラは入れません。しっかり混ぜたところで、25℃くらいに下がるまで氷水で冷やします。

 

クレーム・アングレーズが冷えるまで、板状のフィヤンティーヌショコラを作ります。テンパリングしておいたヘーゼルナッツのガナッシュペーストをボウルに用意。別のボウルにアーモンドプラリネを用意し、そこへ同量程度のヘーゼルナッツのガナッシュペーストを加えて、シリコンヘラで混ぜ合わせます。ちなみにアーモンドプラリネも自家製。前述のものをヘーゼルナッツのガナッシュペーストのボウルへ移し、しっかり混ぜてからフィヤンティーヌを投入して、さっくり混ぜ合わせます。


  
0.6mmの薄さに伸ばして冷やし固めたら、5連のパイカッターで約3cm角の正方形にカット。

技のポイント4

 

攪拌する回数を極力減らして、ふんわり軽くクリーミーなムースに仕立てます

いよいよピスタチオムースの仕上げです。卓上型ホイップクリームマシンでホイッピングした純生クリームを、ボウルに用意します。クリームの温度は7℃以上にならないようキープ。素早くイタリアンメレンゲを入れて、泡立て器で混ぜ合わせます。それを泡立て器で少しすくい、ピスタチオのクレーム・アングレーズに投入。均等に混ぜたら、それをすべてクリームのボウルに加えて混ぜ合わせます。一気に混ぜるより、先に少量のクリームをクレーム・アングレーズに混ぜておくことで、なじみやすくなって攪拌する回数が減り、仕上がりが良くなるそうです。

 

ピスタチオムースを丸口金の絞り器に入れ、ボンブ型(ドーム状の型)に流し込みます。絞り出す量の目安は、型の7割程度。あらかじめ冷凍庫で冷やしておいたチョコレートムースを、ピスタチオムースの真ん中に押し込むように入れます。チョコレートムースを囲むように、ピスタチオムースが型の縁に届くくらい盛り上がるまで押し込むのがポイント。ちなみにチョコレートムースは、卵黄に熱いシロップを加えて泡立てたバータボンブに、カカオ含有量61%のクーベルチュール、生クリームを混ぜ合わせ、半円形のシリコンモールドに絞って、冷凍しておいたものです。

 

チョコレートムースの上に板状のフィヤンティーヌショコラを敷き、ピスタチオムースでフタをします。表面を整えて、ピスタチオのダコワーズを乗せたら冷凍庫へ。冷やして固まったら、ボンブ型の表面を温めて型から外します。

 

ピスタチオムースの半面に、チョコレートで細いラインを描いてデコレート。グリーンの食用色素を加えたグラサージュをレンジで温めて、32~35℃に調温します。温度を均等にするため、ハンドミキサーで攪拌したら、ピスタチオムースの上にたっぷりかけます。トップのグラサージュを少し削り取り、クレーム・シャンティイが絞れるスペースを確保。グラサージュが固まったらガトー容器に移し替え、チョコレートでラインを描いた面にクラッシュしたピスタチオを散りばめます。


  
グラサージュを削り取ったトップに星口金でクレーム・シャンティイを絞り、自家製ピスタチオのマカロンをトッピングすれば出来上がり。マカロンは写真のように、少し斜めに乗せるのがポイントです。

オススメメニュー1

ノリエット 572円 (税込)

テリーヌショコラのように密度が高く、重量感のあるガトーショコラをガナッシュチョコレートでコーティング。足元にチョコレートのクランブルを散らし、無糖のクレーム・シャンティイをたっぷりとトッピングしています。無駄のないシンプルな構成。そのうえ店名を冠していることからも、味への自信がうかがえます。口に入れた途端、ビターで深みのある味わいがねっとりと舌を覆うように広がり、上質なカカオの芳醇な香りが鼻に抜けていきます。チョコレートの魅力がストレートに感じられ、その余韻にいつまでも浸っていたくなる味わいです。旨味や甘味がしっかりしているのに重くならないのは、無糖のクレーム・シャンティイが上手にアシストしているから。すっきりしたミルキー感が濃厚さを和らげ、まろやかな風味を醸し出しています。冷蔵庫から出し、常温に戻してから食べるのがノリエット流です。
 
オススメメニュー2
デリス 572円 (税込)
ビビッドなピンクに染まったカシスのバタークリームが、目にも鮮やかなケーキ。バタークリームと聞くと重い口当たりをイメージするかもしれませんが、このケーキはむしろ生地に重量感を与えることで、カシスの甘酸っぱい風味やクリームの口どけの軽さを際立たせています。生地には、アーモンドパウダーとバターをたっぷりと使用。アーモンドの香ばしさやバターの風味が濃厚で、食べごたえのある仕上がりになっています。クリームは発酵バターを使って風味を出し、卵の黄身を入れず軽めに仕立てることで、カシスの香りが残るすっきり爽やかな後味。生地とのバランスも絶妙です。

オススメメニュー3
モンブラン 604円 (税込)
「Pâtisserie Noliette」のモンブランは、夏と冬で仕立てを変えているので、季節によって違う味わいが楽しめます。違いは、全体を覆うマロンクリーム。写真は冬バージョンで、和栗とヨーロッパの栗をブレンドした濃厚なマロンペーストを使用。粉糖をかけて仕上げています。ゴールデンウイークから9月ごろに登場する夏バージョンは、マロンペーストにクレーム・シャンティイを加えた口どけの良いクリームに変化。中は一緒で、卵白とアーモンドで仕立てたシュクセに、マロンクリーム、ラム酒漬けのマロングラッセを重ね、それらをクレーム・シャンティイで包み込んでいます。ラム酒の風味が効いていて、キレのある香りが鼻孔をくすぐる大人の味わい。和栗とヨーロッパの栗をブレンドしたマロンペーストは、栗のほっくりした食感や香ばしい旨味が感じられ、丸みのあるマロンクリームやラム酒香るマロングラッセと、組み合わせで異なる栗のおいしさに触れることができます。
 
  • お店紹介
    「うちの店と関わる人たちの食生活が、出合う以前より豊かになるような店作りを心掛けています」と真摯に語るオーナーシェフの永井紀之さん

    スイーツ好きなら一度は訪れたい日本を代表するフランス菓子店。店内にはケーキをはじめ焼き菓子、ショコラ、コンフィズリーなどがズラリと並んでいます。さらにパンやフランス料理のトレトゥール(惣菜)も充実。それというのも、オーナーシェフの永井紀之さんがもともと料理人を目指していたから。最初に勤めた料理店で、先輩パティシエから「料理人を志すならお菓子のことも勉強すべき」とアドバイスを受け、先輩の誘いで「オーボン ヴュータン」にオープニングスタッフとして入社。2年後には渡仏し、ヴァランスの「ダニエル・ジロー」やスイス・ジュネーブの「ホテル・インターコンチネンタル」などヨーロッパの名だたる店で、本場の味や文化を学びました。そこで永井さんが感じたのは、「日本は菓子を特別なものととらえがち」だということ。
    「日本でフランス菓子を1から作るとそれなりに手間も材料もかかるので、価格が高くなります。それで贅沢品と思われるのでしょう。フランスのようにもっと菓子を身近に感じて欲しい」
    そのためにも、晴れの日のごちそうやごほうびではなく、日常で使える店でありたいと、永井さんは思っています。常連客が多いので、新作をどんどん発表するより、みんなに愛され続ける定番商品を大事にしている点も、日常を大切に考える永井さんならではです。
  • 基本情報


    店名 Pâtisserie Noliette
    住所 東京都世田谷区赤堤5-43-1
    電話 03-3321-7784
    営業時間 10:00~19:00
    定休日

    火・水曜日
    ※祝日の場合は翌日

    席数

    なし
    ※3階のフランス料理店「Café bar Le Petit Lutin」にてケーキのイートインが可能。17席

    主な客層 幅広い世代で常連客が多い、若干女性の比率が高い
    予算の目安 数百円~平均2,000円前後
    開業 1993年9月3日
    HP https://www.noliette.jp/
  • 掲載内容は取材時点での情報であり、記事内容、連絡先、営業時間などが変更になる場合があります。
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