【洋菓子】OCTOBRE

東京都/世田谷区

世田谷・三軒茶屋駅前の賑やかなエリアを通り過ぎ、人通りも少なくなった閑静な住宅街にひっそりと店を構えるパティスリー「OCTOBRE(オクトーブル)」。たしかな技術に裏打ちされたフランス菓子の伝統を受け継ぎながら、肩肘張らない佇まいで地元のお客様に愛されるお店です。今回は常時30種前後をラインアップするケーキの中でもひときわ異彩を放っているのがモンブランです。極細の口金で麺状のマロンクリームをまとうものが多い中、ドーム型の個性的なスタイルを採用。発想の源泉と工夫をオーナーパティシエの神田智興さんに伺いました。

 
クローズアップメニュー


モンブラン 530円(税抜)
同店のモンブランはドーム型をしたかわいらしいフォルムが特徴的です。神田さんがピエール・エルメで修業していたときに知ったシリコン型で成形する手法から着想したそうです。またドームの上をマロングラッセと金箔で飾るのは神田さんの最初の修業先だった「ルコント」の意匠を受け継いでます。修業先への敬意をそこかしこに感じさせるところに神田さんの菓子作りに向き合う姿勢が感じられます。形がユニークなだけでなく、不慣れなスタッフでも短時間で習得しやすい作業性の高さも利点で、オリジナリティと効率化の両方を実現しています。モンブランを上からすくって口に入れるとリキュールのリッチな香りとともにマイルドな栗の風味が広がります。中層の生クリームは無糖にするなど全体的に甘さを抑え、栗本来の甘み、香りを重視した繊細な味わいです。ベースとなるタルトにもリキュールを入れて、アルコールの揮発感がクリームの甘さにキレを与えつつ、マロンの風味を引き立てる大人好みの味わいです。

 
技のポイント1

材料ごとの固さと温度を均質にして滑らかなマロンクリームを作ります

SABATON社のマロンペーストとマロンクリーム、北海道産バター、生クリームの順に、2対1対1対1の割合でミキサーで練り合わせ、風味付けにラム酒を加えます。なめらかな口当たりが品質の生命線なので、材料が均質に練り合わさるよう質感の硬いものから練りはじめ、柔らかくなってきたら次の材料を加えていきます。
 
適宜ミキサーを止めてビーターのすき間のクリームを取り除いたり、バーナーでボウルの外側から温めるなどして、温度や攪拌ムラがないように細心の注意を払います。クリーム全体が均質なマロン色になり、しっかりと角が立つくらいのなめらかさになるように仕立てます。
 
技のポイント2
 

マロンクリームのそばにリキュールシロップのスポンジを置くのがポイント

シリコン型に練り上げたマロンクリームを絞り袋で絞っていきます。型の半量を目安に絞り、スパチュラで延ばして型全体に均一の厚さになるよう形を整えていきます。成形を終えたら-20℃の冷凍庫で約3時間ほど冷凍します。

  
マロンクリームが固まったら冷凍庫から取りだし、リキュールを含ませたスポンジとマロングラッセを置いて、無糖の生クリームを絞り入れます。リキュールスポンジをマロンクリームと生クリームで挟み込むことで、口の中でクリームがとろけると同時にブランデーが揮発して栗の香りがふくよかに広がります。同時にアルコールの風味が「大人の味のモンブラン」を強く印象づけるのです。スポンジは直径3cm、厚さ1cmに型抜きし、ブランデー、糖度30度のシロップ、水を2対1対1で割ったシロップに数秒漬けてしっかり染み込ませます。生クリームは乳脂肪分45%のものを固めに泡立て、すり切りいっぱいに注入したら再び冷凍庫で冷凍します。
 
技のポイント3 ベースのタルトをつくる

 


  
タルト台の厚みを揃えることで歯ごたえの違和感をなくします
薄力粉、バター、タマゴ、砂糖で練った生地を2mmの厚さのばし、丸型の縁を盛り上げてタルト台を作ります。厚さが異なると歯ごたえ感を損なううえ、もろくもなるので、均一の厚さにのばすことが大切です。アーモンドプードル、タマゴ、砂糖、ラム酒、薄力粉を空気を含ませて白くなるまで攪拌したアーモンドクリームを入れ、カシスのシロップ煮をまんべんなく散らし、オーブンで170度50分間焼きます。

技のポイント4 組み立てていく

 
 

 

  
品質を損ねることなく組み立てやすさも向上します
冷凍したマロンクリームをシリコン型から取り出し、技のポイント2で作ったリキュールシロップをたっぷり塗ったタルト台にのせ、生クリームを絞り粉糖を振り、最後にマロングラッセと金箔をトッピングしたら完成です。生クリームは白さが際立つタイプのものを選び、加糖8%で角が立つくらい固めに泡立てます。


オススメメニュー1

トゥ キャラメル 530円(税抜)

オクトーブルのケーキはほとんどにアルコールを使用した大人の風味ですが、「これはアルコールが苦手な方やお子様のためにアルコール不使用で作りました」と神田さん。濃厚なキャラメルのブリュレ、ミルクチョコレートとキャラメルのクリームをメインに、パッションフルーツの酸味をきかせたミルクチョコレートのムースがアクセントになっています。
 
オススメメニュー2
ミュウミュウ 530円(税抜)
「パリのローラン・ドゥシェーヌで働いていた時にブラックベリーと紅茶の組み合わせという発想に驚かされた」という印象を神田さん再構築して生まれたのがミュウミュウです。ふくよかに香るアールグレイのブリュレをブラックベリーとチョコレートのムースとチョコレートスポンジではさみ、その上をつややかなブラックベリーソースでコーティング。アールグレイの香りをまとったブリュレの濃淳な味わいの中にブラックベリーの酸味とチョコレートの苦みが加わった複雑な余韻が魅了します。

オススメメニュー3
クリームパン 250円(税抜)
ブリオッシュ生地を主体に焼き上げるパンの中でも、高い人気を誇るのがクリームパンです。カスタードクリームをパン生地で包まず、ブリオッシュ生地を土台にたっぷりのカスタードクリームをのせたタルトのようなスタイルがユニークです。「カスタードクリームは多種多様なケーキで使われている店の顔。たっぷりのせているのは、当店の味をわかりやすくアピールするためでもあります」と神田さん。濃厚なタマゴの風味とバニラの香りながら甘さは控えめなカスタードクリームは毎日食べたくなるような飽きの来ない味わいです。
 
  • お店紹介
    「作り手にも人生があるように、お客様もまたそれまでの生活や経験の積み重ねが店や商品を選ぶ価値観を育んでいます。数ある洋菓子店から、自分の店を選んでくれたお客様のそれまでの人生や誰かと一緒に食べるシーンに想いを巡らせることは、自分がなぜ菓子を作っているのかという核と切り離せません」と語るオーナーパティシエの神田智興さん。
     
    神田さんは建築会社でのサラリーマンを経て、パティシエの道を選んだ異色の経歴の持ち主。「就職してみて自分は職人になりたかったんだと気づいた」と振り返りますが、洋菓子の作り方も知らないまま飛び込んだため「最初に修業したルコントでの面接ではものすごく怒られました」と苦笑い。それでも持ち前のバイタリティとひたむきな姿勢で腕を磨き、「ノリエット」「マルメゾン」を経て渡仏。「ピエール・エルメ」「ジェラール・ミュロ」「ローラン・ドゥシェーヌ」といった名店で研鑽を積んだ後、2013年に生まれ育った世田谷・三軒茶屋に店を構えました。
    神田さんが大切にしているのは「人生が感じられる菓子づくり」。たとえばルコントで学んだ「スワン」や「スウリー」を定番に据えているのは、パティシエとしてのルーツを表現するため。またフランスでの修業は技術を習得するためだけではなく、諸先輩方がフランスで体験した苦労やそこで育まれた価値観への理解を深めたいという想いがあったそうです。
    白を基調に深みのあるブラウンでまとめたシックなお店には、ケーキの他にもバラエティ豊かな焼き菓子やショコラ、さらにはパンも20種前後を揃えてバラエティ豊か。ケーキでもシュ・パリジェンヌ250円やエクレア300円といった気軽に買えるものを揃えて地元住民の日常生活にしっかりと根付いたお店として親しまれています。
  • 基本情報


    店名 OCTOBRE
    住所 東京都世田谷区太子堂3-23-9
    電話 03-3421-7979
    営業時間 10:00〜19:00
    定休日

    火曜日

    席数

    2席

    主な客層 地元住民を中心に幅広い世代
    予算の目安 1,000〜3,000円
    開業 2013年4月8日
  • 掲載内容は取材時点での情報であり、記事内容、連絡先、営業時間などが変更になる場合があります。
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